アベノミクスや憲法改正の是非が問われたはずの2016参院選は、蓋を開けてみれば、過去4番目に低い投票率(54.70%)に終わった。与党からみれば順当、野党からみれば健闘──。そう総括された選挙だったが、政治家人生を賭した候補者からみれば生きるか死ぬかの戦い。熱く、熾烈な1日の裏側に、評論家・古谷経衡氏が足を踏み入れた。
* * *
梅雨の間隙を縫うように蒸す7月10日の夜、参院選の投開票日であった。私は熱狂を求め、代々木にある日本共産党本部に向かった。下馬評では共産党は旭日昇天の勢いで公明党に迫る、との観測があった。前回参院選を凌ぐ大躍進と野党共闘。今夏参院選挙の趨勢は共産党が握ると予想された。
が、午後8時の開票と同時に党本部では微妙な空気が漂う。共産党は改選3議席を6議席に倍増させ、東京選挙区でも前回に引き続き勝利した(山添拓候補)が、複数選挙区や比例で一歩及ばず。
「もっと伸びると思っていたのに」という党幹部の話し声が廊下から響いてくる。選挙は生き物だ。事前に伸びる、当選するとされた党や候補が、意外に苦戦することはままある。共産党本部で熱狂を眼前にするつもりがあてが外れた。
そうこうするうちに、前回より1議席定数が増えて6議席になった東京選挙区で、次々と当選者が決まっていく。
開票と同時に民進党の蓮舫、自民党の中川雅治、公明党の竹谷とし子に次々と当確が出る。自民党新人の朝日健太郎にも順次当確が出た。7月10日午後11時、全国各地の選挙区でほぼ当選者が出揃う中、最後まで当選者が決まらなかったのが東京選挙区の6議席目であった。
まさにこの日の深夜、元長野県知事でおおさか維新から立候補した田中康夫と、「国会の鬼検事」として知られ4選目を狙う民進党・小川敏夫の死闘が繰り広げられていたのである。