神奈川県相模原市の障害者施設「県立津久井やまゆり園」で発生した元職員・植松聖容疑者(26才)による殺傷事件。入所者19人が死亡し、職員2人を含む26人が重軽傷を負った。
この事件が起こる少し前、東京都国分寺市であまりにもひどい内容のビラがまかれていた。児童養護施設の建設に反対する内容のそれは、何も説明のないままに計画が進んでいることに抗議したうえで、次のように記している。
《児童養護施設利用をする子供たちの6割が虐待を受けた子供たち、残りは何らかの障害をもった子供たちという統計がある。いじめ、ねたみ、うらみ、つらみの経験そんな環境を持つ子供たちが同じ学校、地域で過ごすことで○○地区に暮らす小さな子供たちや思春期の子供たちへの影響を考えると不安である》
しかしこの「6割が虐待され、残りは障害を持っている」など全く根拠のないことであり、それに続く内容の差別意識はあまりにひどい。一連の騒動を知る全国児童養護施設協議会副会長の武藤素明さんが説明する。
「児童養護施設は、家庭に代わる子供たちの家。決して特別な場所ではなく、朝ご飯を食べて学校へ行き、帰ってきたら宿題や読書をするというどこの家庭にもある風景が日々営まれているのです。もともと東京都では大きな施設ではなく、一軒家を借りて家庭的な環境の中で養育していくグループホームを推奨しています。今回も6人の子供たちがグループホームで、地主さんの土地に地主さんの建てた一軒家を借りて住む契約でした。ところが、不安を覚えた住民のかたが計画を知り、いざ着工というときに反対運動が起こったのです」
通常、大きな施設を建設する場合、地域に住む住民のリサーチをし、自治会や民生児童委員や学校関係者に話を聞く。そして住民に説明会をしている。今回は小規模だったもので説明会はせず、入居する段になって子供たちを連れて近隣にあいさつに行く予定だった。しかし地域の協力なくして成り立たないためやむなく建設を中止した。
これまでドラマ等で取り上げられた児童養護施設のイメージは悪い。威圧的な職員が罵声を浴びせ、暴力や性的虐待が描写されることもある。
「確かにそういう事態が起こることもあります。子供をきちんとしたいと思うあまりに手が出ることもあるし、“この人にすがりたい”という気持ちから職員と性的な関係になってしまうこともあった。でも、そんな暴力と貧しさが横行するイメージは30年も前のもの。先入観をもって施設の子供を見ないようにしてほしい」(武藤さん)
相模原の殺傷事件に、国分寺の施設建設反対。これらの根本にあるのは、私たちに自分と違う存在や弱い存在を受け入れる“寛容さ”がないことなのではないか。精神科医の香山リカさんはこう分析する。
「日本は島国で民族的に自分と違う民族が少ないので、異質なものに対して抵抗があるのです。それは“差別”のような強い感情でなくても、自分とは違う人がいれば、かわいそうな存在としか見られない。ヨーロッパのように、障害者とともに生きるなどという発想がないのです。この事件を見てもさらに多様性を認めない国になりつつあるように思えます」(香山さん)
※女性セブン2016年8月18・25日号