「生前退位の意向」が電撃的に報じられてから約1か月。いよいよ天皇自らが語る局面を迎えた。天皇会見の前夜まで、水面下では宮内庁、官邸、そしてメディアを巻き込む駆け引き、探り合いが繰り広げられた。
天皇の会見の後、これからどのようなことが起きるのか。
「生前退位」の意向がNHKに報じられて以降、保守層からの猛反発が続いている。東大名誉教授で保守民間団体「日本会議」副会長の小堀桂一郎氏は産経新聞(7月16日付)でこう語っている。
〈天皇の生前御退位を可とする如き前例を今敢えて作る事は、事実上の国体の破壊に繋がるのではないかとの危惧は深刻である。全てを考慮した結果、この事態は摂政の冊立を以て切り抜けるのが最善だ、との結論になる〉
この発言を皮切りに保守論客が様々なメディアで「皇室典範の改正反対」を唱えている。この主張をリードしてきたのが、会員数約3万8000人とされ、「憲法改正」や「皇室の伝統を守る」ことを掲げる日本会議だ。
日本会議国会議員懇談会メンバーでもある安倍晋三首相は、官房長官時代の2006年には女性・女系天皇を容認する法案に反対し、そして第2次政権で民主党・野田政権が取り組んだ「女性宮家創設」を白紙に戻した。
安倍首相にとって、皇室典範改正への動きを認めることは強力な支持母体との溝を作ることになりかねない。
「政府内には永続的な制度変更となる皇室典範の改正ではなく、今上天皇の退位だけを認める特別法で対処するといった案や憲法第5条に『生前退位』を加える形で憲法改正を実現してしまおうというプランが浮上するなど、意見が錯綜している」(自民党関係者)
天皇のお言葉までも憲法改正の“材料”に使うというのである。衝撃の“意向公表”から始まった生前退位を巡る議論は、そのスピードばかりが加速度的に増しているが、着地点は見えない。
撮影■雑誌協会代表取材
※週刊ポスト8月19・26日号