貧しくても、優秀でさえあれば進学できたのは過去の話になりつつある。経済的な理由で塾に通えない子供たちのための無料の学習塾を実施しているNPOキッズドアの活動実績から、諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師が「子どもの貧困」について考えた。
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子どもの貧困に対して、学習する場を提供しているのは、NPOキッズドアだ。理事長の渡辺由美子さんは、貧困が子どもの学力や進路、就職に大きな影響を及ぼすと危機感を抱いている。
実際、親の年収と家庭での学習時間を調査してみると、相関関係があることがわかった。家が貧しいと、子どもの学習時間は少なくなる。家の手伝いや兄弟の世話などで、学習時間が十分とれないせいもある。本人が、進学や夢をあきらめてしまう場合もある。そして、貧しい家の子は貧しさから脱することができず、貧困が次世代へと連鎖していくのである。
キッズドアはこうした連鎖を断ち切り、どんな困難な環境にいる子どもにも公平なチャンスを与えようとしている。
具体的には、経済的理由で塾に通えない中学3年生のための高校受験対策講座「タダゼミ」や、高校生のためには大学受験対策講座「ガチゼミ」を実施。勉強を教えるのは、大学生のボランティアだ。
2014年度には中高校生219人が受験し、全員が合格した。国立大学や有名私立大学に合格した人もいる。その子たちが、今度は“教師”となって、ボランティアで中高校生を教える。そうした先輩の姿は、恵まれない子どもたちにとっても、身近ないいロールモデルになるに違いない。
スイスのチューリッヒ大学は、子どものころの、見知らぬ人に親切にしてもらった経験が、脳の共感能力を高めるという研究結果を報告している。人に親切にしてもらった経験がある人は、困難のなかで苦しんでいる人に同情的になったり、共感的になったりできるという。それは、社会を住みやすくし、この国を元気にしていく基本になるのではないか。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。
※週刊ポスト2016年8月12日号