日本人のがんに対する恐怖心は大きい。多くの人は「がんにだけはなりたくない」「がんになると痛い……」と口を揃え、がんで死ぬことは不幸だと思い込みがちだ。
だが、本当にそうだろうか。意外にも、「がんで死ぬのが一番楽だ」と話す医療関係者は少なくない。米山医院院長の米山公啓氏はこう語る。
「ひと昔前と比べ、がんの緩和ケアは格段に進歩しています。モルヒネによるペインコントロールで痛みが軽減され、多くのがん患者は苦しまずに最期を迎えている。肝臓がんや腎臓がん、胃がんなど、痛みをコントロールするのが比較的容易ながんは多いのです」
発生する部位によってがんの痛さの程度は異なってくる。
「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓は、がんが発見されたときには末期に至っていることが多いとされる。しかし沈黙の臓器であるゆえに肝臓がんは、痛みが少ないがんでもある。
肝臓がんが進行すると腹水が溜まるため、血液が滞ったり、血圧低下が起こる。だが、そうした体調不良を除けば、「軽い腹痛」を疑う程度で、痛みをほとんど感じない患者もいるという。
胃がんも痛みが少ないがんの一つとされる。腫瘍が大きくなると胃酸が流れ込み、沁みるような痛みを覚えるケースが稀にあるという程度で、こちらもがんそのものが与える痛みは少ない。
膵臓がんは、年間約3万人が亡くなり、5年生存率が10%を切ることから「最も危険ながん」と恐れられている。だが、これも痛みの少ないがんである。臓器が腰の神経の近くにあるため、腫瘍が浸潤すると、「ちょっと腰が痛いなァ」と腰痛を訴えることがある程度だという。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号