昨年成立し、今年3月に施行された安保法による自衛隊の新しい活動がいよいよ始まる。コラムニストのオバタカズユキ氏が語る。
* * *
日本の8月は、「戦争」について思い巡らす月である。8月6日には広島に、9日には長崎に原爆が落とされた。あの惨事を忘れてはならない、と歴史を静かに振り返るときである。
ところが、その最中の8月7日に、慌ただしいニュースが流れた。
《南スーダンPKO、「駆けつけ警護」任務付与へ》
読売新聞はこんな見出しで、日本政府の動きを伝えた。《11月に南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣する陸上自衛隊の部隊に、3月に施行された安全保障関連法で実施可能になった「駆けつけ警護」と「宿営地の共同警護」の任務を付与する方針を固めた》と。
この時期になぜ、という読者の疑問に対する回答も添えている。《政府は、7月の参院選で争点化されるのを避けるため、新任務を実施する上で必要な訓練をこれまで行わず、武器使用の範囲などを定める部隊行動基準といった内部規則の作成やその周知徹底などにとどめてきた》と。従来の「しばり」が与党の勝ちで解けて、いよいよ戦場にGOというわけだ。
「宿営地の共同警護」のほうは、まあそのままイメージできるとして、「駆けつけ警護」とは何か。読売新聞の同記事は、《現地で国連職員や民間人、他国軍兵士らが武装集団などに襲われた場合に陸自部隊が救援に行く「駆けつけ警護」》という表現をしている。毎日新聞の8日の記事では、《PKO活動を行う自衛隊員が、離れた場所で襲撃を受けた他国軍や非政府組織(NGO)職員の救援に向かうこと》としている。
つまり、南スーダンで「駆けつけ警護」を命じられた陸上自衛隊員たちは、国連平和維持活動(PKO)を遂行する国連平和維持軍(PKF)の兵士として、襲い来る武装集団と武力で戦うのである。隊員全員が無事に帰国することを第一目的としていたこれまでのPKO派遣と違い、危険性のレベルがかなり上がる。
3月施行の安全保障関連法が違憲か合憲かという問題は、引き続き憲法学者をはじめとする専門家同士で議論してほしい。それとは別にここで意識したいのは、こうやって「駆けつけ警護」の任務を付与された自衛隊員たちが、「死」に近づいた現実である。彼らは、自分が死ぬ可能性もそうだし、敵を殺す可能性も増した。
南スーダンの治安状態は極めて悪く、PKO基地もしばしば襲われ、多数の死傷者を出し続けているという。そんなところへ“戦わない軍隊”だった自衛隊の隊員たちが、「駆けつけ警護」アリで行って来い、と言われたらどんな心境になるのだろう。