日本人の死因の多くを占める「がん」だが、その中にも「痛いがん」「苦しいがん」と「そうでもないがん」がある。それほど痛みを伴わないがんには肝臓がん、胃がん、膵臓がんなどがある。一方痛いがんの代表が前立腺がんだ。大腿骨や上腕骨、酷いケースでは頭蓋骨など、骨に転移しやすい特徴がある。
骨に転移すると痛みが激化する。骨の周囲は神経が束になっているため、腫瘍が浸潤すると、モルヒネによるペインコントロールが効きにくくなり、痛みが消せないのだ。
骨転移したがん患者は、寝返りのようにほんの少し体の向きを変えただけでも、悲鳴を上げるほどの激痛に見舞われることがある。また、骨が脆くなることで骨折し、痛みを倍増させるケースもある。
大腸がんも、腫瘍が腸管を塞いで腸閉塞を引き起こすと、猛烈な苦痛に苛まれるという。2000人以上のがん患者の相談に無償で乗ってきた「がん難民コーディネーター」の藤野邦夫氏が解説する。
「放置すると、便が出なくなり、嘔吐するようになります。この時、胃液など通常の吐瀉物でなく、腸などから逆流して便のようなものが口から出てくることがあるのです。肉体的な苦しさはもちろん、これを繰り返し経験すると、精神的に参ってしまう」
もう一つ、苦しいがんの代表格と言われるのが肺がんだ。特に肺の表面を覆う胸膜の炎症を併発すると、肺の内側に水が溜まり、取り込める空気の量が減る。いくら息を吸っても酸素が足りず、ずっと溺れているような呼吸困難状態が続くという。米山医院院長の米山公啓氏はこう語る。
「末期の肺がん患者になると、この状態が毎日続き、あまりの苦しさから、会話どころか体を少し動かすのさえ苦痛になります」
※週刊ポスト2016年8月19・26日号