日本人の多くは「がんにだけはなりたくない」と考え、がんで死ぬことは不幸だと思い込みがちだ。だが、意外にも、「がんで死ぬのが一番楽だ」と話す医療関係者は少なくない。肝臓がん、胃がん、膵臓がんなどは「痛みが少ないがん」だとされる。
逆に「痛いがん」の代表格と言われるのが、前立腺がんだ。前立腺がんは5年生存率がほぼ100%で、膵臓がんと逆に進行が遅いがんである。
しかしそれは「がんと長く付き合う」という意味でもある。4年前に夫を前立腺がんで亡くした瀬戸美智子氏(73・仮名)が、壮絶な闘病生活を振り返る。
「亡くなる2年前には膀胱や直腸、肋骨や背骨にまで腫瘍が転移し、主人は歩くこともできなくなり、車椅子生活を送っていました。特に背骨や肋骨の痛みが激しいようで、亡くなる1年ほど前から寝返りを打つこともできなくなり、じっと天井を見上げたままの寝たきり状態になりました。排泄は血尿や血便ばかりで、看病しているこちらも滅入ってきた……。
仰臥したまま動けないのに、日に何度も苦悶のうめき声を漏らす主人の姿に、何度も泣きました」
2000人以上のがん患者の相談に無償で乗ってきた「がん難民コーディネーター」の藤野邦夫氏が言う。
「前立腺がんは、大腿骨や上腕骨、酷いケースでは頭蓋骨など、骨に転移しやすい。頭蓋骨にまで転移してしまった人のPET(陽電子放出断層撮影)画像を見たことがありますが、全身“真っ黒”の状態で、一目見てがん細胞に体全体が侵されていることがわかり、思わず目を逸らしたくなりました」
※週刊ポスト2016年8月19・26日号