季刊誌でスタートした賃貸不動産オーナー向け専門誌『家主と地主』は隔月誌を経て、昨年9月号から月刊誌になった。読売新聞と日経新聞にも広告を定期出稿している。そんな同誌の最新号(2016年8月号)での巻頭特集記事は「賃貸住宅で起きた驚きの事件」で、「近所で飼われていたワニが逃げ出してアパート敷地内に出没し大パニック」など刺激的な見出しが躍る。
しかし、さすが専門誌と思わせるのは、こうした事例を単なる仰天話で終わらせず、対策方法を示して実用記事に仕上げているところだ。例えば、こんな事例が紹介されている。
〈管理物件に仲介業者から内見の依頼があり、名刺のファックスを確認してキーボックスナンバー(部屋の鍵に相当)を伝えた。翌日、内見の結果をヒアリングしようと電話を掛けたがつながらず、どんな会社なのか気になって調べてみたところ、電話番号で検索しても何も出てこなかった〉
窃盗団が、仲介業者を装って部屋のキーボックスナンバーを入手し、空き部屋の住人になりすまし、不正な宅配便の受け取りに利用しようとしていたのだ。
記事では、〈名刺faxだけでなく担当者の身分証を送らないと内見させない〉といった対策を伝授している。
他にも、賃貸物件が振り込め詐欺集団のアジトにされていた事件や、隣の住人がベランダ越しに若い女性の部屋を盗撮していた事件、物件の原状回復工事の合間にエアコン室外機が盗まれた事件など、えげつない事例が紹介されている。
同誌はこうしたディープな情報をどうやって集めているのか。『家主と地主』編集長の永井ゆかり氏が語る。
「『家主と地主』はそれ以前の業界新聞から数えると27年の歴史があり、全国に賃貸不動産オーナーや管理会社などのネットワークができているからこそ、細かな情報が集まってくるのです」
特集の最後には、「専門家に聞く! 事件に巻き込まれそうな時は契約の解除ができるのか?」と題したコラムがあり、弁護士が読者の質問に答えている。
入居者が刑事事件で逮捕された場合、それを理由に賃貸契約を解除できるのかという問いに対し、〈賃貸借契約を解除するためには、賃借人に債務不履行ないし義務違反があることを前提としています〉とし、家賃を真面目に払っている限り、逮捕されただけで契約解除することは難しいと回答している。家主には厳しい法の規定である。
※週刊ポスト2016年8月19・26日号