誰しも若い頃、胸を熱くし、夢中になった漫画があったことだろう。しかし多忙になるにつれ、漫画を手に取る機会も少なくなっていく。人生も折り返しを過ぎた今こそ、再び読み始めてはどうだろう。きっとあなたの老後は豊かなものになるはずだ──。
そこで本誌では、各界の「漫画通」が薦める作品を「感動部門」、「政治・経済・社会部門」、「歴史部門」、「スポーツ部門」に分けてピックアップ。ここでは「感動部門」の作品を紹介しよう。
いま最も大人の男たちを虜にしている漫画だろう。毎年のヒット作を表彰する『マンガ大賞』の発起人で、ニッポン放送アナウンサーの吉田尚記氏は、『BLUE GIANT』(石塚真一、小学館刊)がグッとくるという。
世界一のジャズサックスプレイヤーを目指す、主人公の大のひたむきな努力に心動かされる。彼の夢を応援する周りの人物たちも魅力的だ。貧しいながらも弟のためにローンで51万6000円のサックスを買った兄、大を支えつつ優しく見守る父、そして、一緒にバンドを組む仲間たち。
「僕は大とバンドを組む玉田くんというドラマーのエピソードが好きですね。玉田くんはドラムを始めたばかりでヘタだけど、ジャズをやりたい情熱はある。大はそんな彼を『ウマくてもヘタでも、感動できればいい』と励ますんです。心を動かされた玉田くんは、猛練習して上達することで大に恩返しする。男同士の友情に目頭が熱くなります」(吉田氏)
同作は『マンガ大賞2016』では第3位に輝き、売り上げ部数は累計で150万部超。情報誌やジャズ雑誌でも取り上げられた。
評論家の呉智英氏が「70歳になる私が号泣した漫画はこれです」として挙げたのが『自虐の詩』(業田良家、光文社刊、文庫版は竹書房刊)と『夕凪の街 桜の国』(こうの史代、双葉社刊)である。
「『自虐の詩』は酒浸りでろくに働きもせず、いつも文句ばかりいってちゃぶ台をひっくり返す癖を持つ主人公・イサオと、彼にすがる元娼婦で元薬物中毒の内縁の妻・幸江の日常を描いた作品です。ハッキリいってどうしようもない二人なんですが、それでも懸命に生きていくことで、最終的には不遇な人生が報われる結末が待っています」
『夕凪の街 桜の国』は、広島で被爆した少女の短い生涯を描く。
「被爆そのものを描いたのではなく『原爆で父と妹を亡くし、自身も被爆した少女の一生』を描いている。後遺症に悩まされながらも、恋人らと幸せな日々を過ごす少女。最後は誰もが号泣するでしょう」(呉氏)
※週刊ポスト2016年9月2日号