「次は必ずこの球がくる」──プロの打者がそうわかっていても、手が出ない、あるいはバットにかすりもしない。今も昔もプロ野球ファンを魅了してきたのが「決め球」の数々だ。当事者たちの証言をお届けしよう。
近鉄をはじめ中日、西武とリーグをまたいで18年間中軸打者として活躍した金村義明氏はこういう。
「球種がわかっていても、バットにかすりもしない。私の現役時代は、そんな『決め球』を投げるピッチャーが各球団にいたものです」
なかでも印象に残る球として、村田兆治(ロッテ、1968~1990年、通算215勝)のフォークボールを挙げる。
「兆治さんの“マサカリ投法”から繰り出されるフォークは、本当に一瞬、視界から消えるんです。僕らみたいなポッと出の若手にはあまり投げなかったけど、それでも印象は鮮烈です」
ヤクルト、巨人、阪神の3球団で4番を打った広澤克実氏は、19シーズンにわたるキャリアの中から、
「ヤマを張って、その通りに来ても打てない球となるとストレートなら藤川球児(阪神ほか、1999年~)、スライダーは伊藤智仁(ヤクルト、1993~2001年、通算37勝、新人王・カムバック賞)、フォークは佐々木主浩(横浜→マリナーズほか、1990~2005年、日米通算381セーブ)」
と挙げ、とりわけ伊藤の高速スライダーを「考えられないくらい曲がった」と振り返る。
「右バッターの背中にぶつかりそうなところから来て、外角いっぱいにおさまる。それもギリギリまで真っすぐ来て、体の手前でピンポン球みたいに鋭く曲がるんです。打者は自分に向かってくる球を“これはスライダー”と信じて振るしかないが、必ず腰が引ける。杉内俊哉(巨人、2002年~)、ダルビッシュ有(レンジャーズ、2005年~)のスライダーも素晴らしいけど、伊藤のほうが速くてよく曲がった」
※週刊ポスト2016年9月2日号