それは各家庭のテレビやラジオはもちろん新宿アルタや大阪・道頓堀川にかかる戎橋前などの大型ビジョン、家電量販店のテレビやインターネットを通じて全国津々浦々に届けられ、さらに海外でも広く伝えられた。
全国各地で猛暑を記録した8月8日午後3時。天皇陛下はビデオメッセージを通じて国民にお気持ちを示された。時間にして11分、1813文字の“お言葉”に、胸を打たれたという人は少なくない。
読売新聞社の世論調査(8月11日付)によると、お気持ちを表明されたことを「良かった」と思う人は93%にのぼった。ジャーナリストの田原総一朗さんは、このメッセージを「平成の玉音放送」だと感じたという。
「私が昭和天皇の玉音放送を聞いたのは小学校5年生の時。正午に天皇の重大放送があるというので、ラジオの前に座って待っていました。当時の玉音放送は、本土決戦で最後の一兵まで戦うと言っていた軍の幹部に対する、昭和天皇の挑戦だったと私は考えています。
今回の陛下のお言葉も、語り口こそ穏やかですが、それに匹敵する必死の思いが込められていたのでは。天皇の政治関与を禁じた憲法第4条に触れる可能性があるなかで述べられたのは、相当のご決意があったからでしょう」(田原さん)
陛下ご自身もお言葉で触れられたように、日本国憲法第4条では、天皇は《国政に関する権能を有しない》と定められ《国事に関する行為のみ》行うものとされている。
大日本帝国憲法で《天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬》すると定められていたのとは対照的だ。それゆえ、陛下のご発言は「政治的なものではないか」と臆測を呼んだり、逆に政治家らが「天皇の政治利用ではないか」と批判されたことも過去にあった。
だからこそ今回のお言葉は世の中に強い衝撃を与えた。『おことば 戦後皇室語録』の著書がある作家の島田雅彦さんは、陛下が“個人として”と述べられたことについて次のように話す。
「規定上、皇室のかたがたには、一般国民には認められている基本的人権がありません。つまり、陛下は“個人”として認められていない中でご発言したということを重く受け止めるべきです。