ライフ

胃ろうを続けると水死体のように顔と体が膨れ上がる例も

胃ろうの患者数は40万人とも60万人とも

 衰弱が進み、口から食事を摂ることが難しくなった患者の腹部に穴を開け、チューブを通じて人工的に水分や薬、栄養剤を注入する「胃ろう」。麻酔が使われるため手術による痛みは少なく20分ほどで済むこともあり、日本で最も普及している延命治療である。

 患者数は全日本病院協会による推計で約26万人(2011年)だが、実数はもっと多く40万とも60万人とも言われる。しかし、患者の死後、胃ろうを選択したことを後悔する遺族は多い。

「胃ろうを長く続けると、こんなことになるなんて……亡くなる直前の主人の姿は、まるで水死体のように顔も体もふくれ上がっていました。息を引き取る数週間前からは肺の中に水が溜まって喉がゴロゴロと鳴るようになり、カニのように口から泡を噴くこともありました。見たことのないピンク色の痰まで出てきて……とにかく呼吸が苦しそうで、看取るのが辛かったです」

 昨年、臓器不全で亡くなった田辺敏夫さん(仮名・82)の妻はそう話した。認知症を患っていた田辺さんは今から4年前、風呂場で転倒し大腿骨を骨折。近くの大学病院に搬送されたものの、寝たきりになってしまった。

 衰弱とともに食事を摂ることがままならなくなったため、入院から2週間ほど経った頃、担当医師から勧められたのが「胃ろう」だった。終末期医療に詳しい長尾クリニック院長の長尾和宏氏の指摘だ。

「現在、多くの病院や介護施設では高齢の胃ろう患者に1日約2リットル、1600キロカロリー程度の栄養剤が注入されています。しかし死を目前にした人にそんな量が必要でしょうか。老衰の終末期ならその半分程度の量で必要十分と考えます。

 過剰な水分やエネルギーを最期まで注入され続けると、活性酸素が増え、寿命を縮めるとともに水ぶくれのような状態で早死にします。心不全から肺水腫となり口から泡を噴きます。ベッドの上で溺れ死ぬのです」

 もう一つ、胃ろう患者に多いのが、胃に注入される栄養剤や水分の逆流である。都内の療養型病院に勤務する医師が語る。

「注入された水分や栄養剤が喉まで逆流すると、それが気管に入る誤嚥が起こり、肺に細菌が侵入して肺炎となることがあります。誤嚥が原因で起こる誤嚥性肺炎は、胃ろう患者に目立っています。こうなると息苦しさと発熱を伴いながら絶命する患者も少なくありません。

 本来は誤嚥しないために胃ろうをつくる高齢患者において、誤嚥性肺炎が多発しているというのは、なんとも皮肉な現実です」

※週刊ポスト2016年9月2日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
【エッセイ連載再開】元フジテレビアナ・渡邊渚さんが綴る近況「目に見えない恐怖と戦う日々」「夢と現実の区別がつかなくなる」
NEWSポストセブン
『続・続・最後から二番目の恋』が放送中
ドラマ『続・続・最後から二番目の恋』も大好評 いつまでのその言動に注目が集まる小泉今日子のカッコよさ
女性セブン
事務所独立と妊娠を発表した中川翔子。
【独占・中川翔子】妊娠・独立発表後初インタビュー 今の本音を直撃! そして“整形疑惑”も出た「最近やめた2つのこと」
NEWSポストセブン
名物企画ENT座談会を開催(左から中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏/撮影=山崎力夫)
【江本孟紀氏×中畑清氏×達川光男氏】解説者3人が阿部巨人の課題を指摘「マー君は二軍で当然」「二軍の年俸が10億円」「マルティネスは明らかに練習不足」
週刊ポスト
田中圭
《田中圭が永野芽郁を招き入れた“別宅”》奥さんや子どもに迷惑かけられない…深酒後は元タレント妻に配慮して自宅回避の“家庭事情”
NEWSポストセブン
ニセコアンヌプリは世界的なスキー場のある山としても知られている(時事通信フォト)
《じわじわ広がる中国バブル崩壊》建設費用踏み倒し、訪日観光客大量キャンセルに「泣くしかない」人たち「日本の話なんかどうでもいいと言われて唖然とした」
NEWSポストセブン
ラッパーとして活動する時期も(YouTubeより。現在は削除済み)
《川崎ストーカー死体遺棄事件》警察の対応に高まる批判 Googleマップに「臨港クズ警察署」、署の前で抗議の声があがり、機動隊が待機する事態に
NEWSポストセブン
北海道札幌市にある建設会社「花井組」SNSでは社長が従業員に暴力を振るう動画が拡散されている(HPより、現在は削除済み)
《暴力動画拡散の花井組》 上半身裸で入れ墨を見せつけ、アウトロー漫画のLINEスタンプ…元従業員が明かした「ヤクザに強烈な憧れがある」 加害社長の素顔
NEWSポストセブン
趣里と父親である水谷豊
《趣里が結婚発表へ》父の水谷豊は“一切干渉しない”スタンス、愛情溢れる娘と設立した「新会社」の存在
NEWSポストセブン
米利休氏のTikTok「保証年収15万円」
東大卒でも〈年収15万円〉…廃業寸前ギリギリ米農家のリアルとは《寄せられた「月収ではなくて?」「もっとマシなウソをつけ」の声に反論》
NEWSポストセブン
SNS上で「ドバイ案件」が大騒動になっている(時事通信フォト)
《ドバイ“ヤギ案件”騒動の背景》美女や関係者が証言する「砂漠のテントで女性10人と性的パーティー」「5万米ドルで歯を抜かれたり、殴られたり」
NEWSポストセブン
“赤西軍団”と呼ばれる同年代グループ(2024年10月撮影)
《赤西仁と広瀬アリスの交際》2人を結びつけた“軍団”の結束「飲み友の山田孝之、松本潤が共通の知人」出会って3か月でペアリングの意気投合ぶり
NEWSポストセブン