タクシーの初乗り運賃を410円にする実証実験が8月5日、都内でスタートした。実験は東京都内の新橋駅東口や浅草駅前など4か所の乗り場で行われた。運賃は1.059kmまで410円で、その後は237mごとに80円ずつ加算する仕組み。初乗りを現行の2km・730円より距離も運賃も半分程度に引き下げられたことになる。
今回、タクシー会社が相次いで初乗り運賃の値下げを申請した背景には、利用者の落ち込みがある。国土交通省によると、平成26年度の東京のタクシー利用者は10年前と比べると23%も減り、タクシー会社の収入も減少傾向が続いている。タクシー会社としては、短距離でも気軽に利用しやすくする“ちょい乗り”の需要を喚起することで、利用者を増やしたい考えだ。
国土交通省自動車局旅客課タクシー担当者は今回の試みについて効果をこう想定する。
「東京のタクシー運賃については、国土交通省(関東運輸局)が上限下限を設定しているが、初乗り距離を短くして額を引き下げるという内容の申請が、8割を超える事業者からされていて、現在、運賃改定手続を進めている最中です。このような見直しにより、高齢者や訪日外国人の観光需要等の日常生活需要の喚起等の効果を検証しています」
なるほど、「410円タクシー」は、高齢化社会と4年後の東京五輪を見据え、お年寄りや外国人利用客を取り込もうとした戦略だったのだ。だが、値下げによって利用者は増えるのだろうか?
「値下げのようなイメージもありますが、これは実質、値下げではなく“組み換え”です。410円から加算され、2kmでの時点で同じ料金になるんですが、20kmを超えて6000円以上の金額になると、今までより割高になってしまうのです」(タクシー評論家・青空遊歩さん)
一方、ドライバーからは、こんな意見も。
「いわゆる“流し”ではなく駅などにつけるようなタクシーは、30分ほどお客さんを待って410円の近距離の利用だったら、正直つらいと思います」(カリスマタクシードライバー・下田大気さん)
実証実験で新橋駅から午前中の3時間で5人の利用があったというドライバーは、「お得感が全くない」と、嘆いていた。
利用する側からも、「そもそもワンメーターだとタクシーの運転手に嫌がられてしまうのでは?」「近距離はお得だと聞いているが、メーターが頻繁に上がっているので、遠距離になると今までのタクシー料金より高くなってしまうんじゃないか」と懸念する声もある。
今回の実証実験のポイントは、これが本当に“お得”と感じるのかどうかにある。タクシーの初乗り運賃が引き下げられれば短距離を移動する利用客は確実に増えるだろう。その一方で、20km以上を移動するために乗車するビジネスマンなどは損をしてしまうかもしれない。
いずれにしても“ちょい乗りタクシー”が普及に至るのかどうか。9月15日まで検証は続く。
※女性セブン2016年9月8日号