呼吸が困難な患者が延命治療のために付ける「人工呼吸器」は、マスクを付けるだけの簡単な医療行為だと思われがちだが、それはある程度自力で呼吸ができる状態に限った話だ。自力呼吸が難しくなった患者には、口から気管にチューブを挿れて気道を確保する経口挿管による人工呼吸器が装着される。
呼吸の補助にはなるが、息苦しさは強く、嗚咽し、苦痛でのたうち回る患者もいるという。入院患者の9割以上を高齢者が占める木村病院院長の木村厚氏の解説。
「口に直径8ミリ前後の管が入ってくるわけですから、吐き気や不快感は大きい。苦痛を和らげるため、鎮静剤を持続的に投与する必要が生じます」
長期間にわたって人工呼吸が必要な場合は、気管を切開してチューブを通し、今度は肺により直接的に空気を送り込む気管挿管になる。手術時には麻酔が施され、気管に入るチューブは経口挿管のものより細くなるが、苦しさは経口挿管よりも増すという。江別すずらん病院認知症疾患医療センター長の宮本礼子氏が解説する。
「チューブという“異物”が気管に入っている状態が常に続くわけですから、患者の苦しみは多大です。人工呼吸器につながれた状態では声も出すことができません。意識のある患者にとっては堪え難い苦痛です。また、ひっきりなしに気管チューブから痰を吸引しなければなりません。この苦しさもまた堪え難いもので涙を流す患者もいます」
意外に知られていないのが、心肺蘇生法として人工呼吸とセットで行なわれることが多い「心肺蘇生処置(心臓マッサージ)」の痛さだ。都内の救急救命士が明かす。
「高齢者に心臓マッサージをすると、骨が弱まっているため肋骨が折れるケースがある。ボキボキと骨が折れる感触が手に伝わってきて気持ち悪いが、相応の力でやらないと救命にならない。命は助かっても、折れた肋骨の痛みがひどく、寝返りも打てなくなる患者もいるほどです」
※週刊ポスト2016年9月2日号