その圧倒的な演技力と存在感で、演出家や監督からのラブコールが絶えない女優・大竹しのぶさん(59才)。8月27日公開の映画『後妻業の女』でも、脚本も書いた鶴橋康夫監督が原作を読んで、真っ先に大竹しのぶさんを思い浮かべたという。
原作となった『後妻業』は、高齢者の資産を狙った犯罪を題材にした黒川博行さんの小説。主人公の小夜子は、結婚相談所で効率的に相手を見つけ、次々に殺して遺産を自分のものにしていく。
作品には、高齢化社会ニッポンの縮図が描かれている。たとえば夫役の1人、津川雅彦さんと小夜子が公園で座っているシーン。小夜子に冷たくあしらわれながらも、彼はそれでも小夜子と一緒にいたいのだ。
「小夜子は、早く死んでくれないかなぁなんて思っているのにね(笑い)。でも、もしかしたら、本当の夫婦でさえ、そんな感じのところがあるのかもしれない。経済的な理由で、離婚したいけどできないという妻は多いでしょうし。夫婦でご覧になったら、旦那さんがちょっと優しくなるかもしれませんよ(笑い)。
かつては大家族で、おじいちゃんやおばあちゃんの面倒を家族みんなでみていました。でも、今は、特に核家族化が進んだ都会では、それはなかなか望めない状況。私の妹は公務員で、一人暮らしの老人を施設に入れるお世話をしているので、孤独で苦しむ人たちの話もよく耳にします。65才以上の人が日本人の26%を占めるという社会の中で、みんなどうやって生きていくのだろう。幸せに死んでいくお年寄りって、いったいどのくらいいるのかと思うと、不安になりますよね」(大竹さん、以下「」内同)
自身は、現在、息子や娘とともに94才になる母の江すてるさんとの4人暮らし。2年前、骨折した母を家族で必死に支えた日々を、新聞連載のエッセイに綴っていた。
「母は回復して、今はひとりでトイレにも行けるし、認知症が進まないように、新聞を音読しています。でも、自分でお料理を作ったりはできないので、見守りは必要ですね。足がちょっと弱っているので、ひとりでいて転んだら大変。ヘルパーさんにも来てもらっていますが、子どもたちがいるので助かっています」
そんな大竹さんも、この夏で59才になった。が、1年後の還暦には激しく抵抗する。
「60才、嫌ですよ。還暦なんて、なりたくない! 勤め人なら定年の年なわけで、自分がそういう年齢に達したことが結構ショックですね。このまま老いていくのだろうかという不安もあるし、中身がまだそこまで追いついていない感じもある。老後という言葉にはまだまだ実感が伴いませんね。階段はタッタタタと上れるし、舞台で走り回るのも今まで通りで、台詞を覚えるのも全然大丈夫。年齢を意識しないで生きてきたので、これからもそうしていくつもりです。体が動くうちに、本気で肉体的にハードなことをやっておこうとは思いますが」
取材・文/島崎今日子
※女性セブン2016年9月8日号