そんなに多くはないけど、周りに数人はいる左利き。その歴史や偉人、右利きの人には分からない左利きの苦労を紹介しよう。(2016年8月28日更新)
左利きの基礎知識
時代・国・地域問わず、常に1割強
左利きは、いったい世間にどのくらいいるのだろうか。「ざっくりいうと1割強です。いつの時代のどこの地域、国でもこの割合は変わりません」(『選ばれし民 左利き』著者・八田武志さん)。 八田さんが1993年に国内の大学生と専門学校生1700人にした調査によると、左利きは男子12.8%、女子7.8%だった。(両利きも含む)
利き手を決める要因は?
「利き手を決める要因は諸説あります。胎児期に左脳を損傷して右脳に依存したことによる『脳損傷説』や親や血縁関係による『遺伝説』などです。さらに、なぜ1割という一定数なのかは、謎なんです」(八田さん)
数学、芸術的才能にかかわる右脳で思考する傾向
「右脳には数学的才能や芸術的才能にかかわる神経システムがあり、左利きの人は言語活動も含め、この右脳で思考する傾向があります。左利きの人の場合、言語系システムも右脳を優位に働かせるという独自性があるため、論理的思考も独特で『数学の天才』になりやすいようなのです」(脳科学者・澤口俊之さん)
軽蔑されてきた歴史があった
かつて、左利きは軽蔑されてきた歴史もあった。「明治、大正、昭和初期は、左利きの子供は矯正されました。女性はお裁縫や料理などを左手で行うことは考えられなかった。軍国主義の時代は、敬礼を左でやってしまったら、とんでもない無礼とされていました」(『左ききのトリセツ』著者・實吉達郎さん)
左利きの地位の向上
いろいろな個性が尊重される社会になっていくにつれて、左利きの地位は向上していった。「19世紀末にイギリスで『両手きき運動』が起こり、左利きに注目が寄せられ、次第に左利きが認知されるようになっていきました。日本では1980年代頃から、左利きの子供を親が矯正しなくなりました」(八田さん)
1973年に『わたしの彼は左きき』が大ヒット
はなわが語る左利きの辛さ
左利きのあるあるネタ『つらいぜ!ダリヒー』が話題のお笑い芸人で左利きのはなわが、「ダリヒー」のつらいあるあるを教えてくれた。
字を書くと手が汚れる
「小指側の側面、部位の名前はわかりませんけど(編集部注:小指球〈しょうしきゅう〉)、そこが鉛筆で真っ黒になるんです。昔から手を浮かして書いていました。それだからか、字は下手です。ほら、ホワイトボードもこんなに書きにくい」
駅の自動改札は通りにくい
「駅の自動改札は右利きの人が使用しやすいように作られています。左利きは、切符、今だとSuicaやPASMOですけど、左手で持つので、非常に入れにくいです。自動販売機もそうだし、有料駐車場の料金所もトイレの洗浄便座、パチンコも全部右利き用です」
お寿司が食べにくい
「お寿司店では、右利き用の人が食べやすいようにお寿司が斜めに置かれます。左利きから言わせたら、食べにくいことこの上なしです。一流の寿司店の大将は、左利きと気づくと、食べやすいように置いてくれます」
食事の席位置は左端
「左隣の右利きの人とひじが当たってしまうので、座る位置は左端です。“どうぞ”と言われない限り、真ん中には行きません。いつも端っこ。自分の誕生日会でも端っこです。カウンター席しかないラーメン店だとほかのお客さんの目が冷たいですね」
ベースは右利き用です
「学生の時、右利きの兄から借りてはじめたので、しょうがなく右用を使って、ずっとそのままです。左利き用は種類が少ないし、値段が高い」
腕相撲大会はいつも変な空気
「世間は、ほとんど右利きだから、腕相撲で“正々堂々”の勝負ができないんです。左腕で右利きの人に勝っても変な空気になります」
左利きあるある 道具が右利き用ばかりでツラい!
9割が右利きなのだから、自然と世間では右利き用の道具が多くなり、左利きの人はつらい思いをすることも少なくないという。『悲しくも笑える左利きの人々』の著者で、自身も左利きだった渡瀬けんさんに、世間でいかに右利き用の道具が多いかを語ってもらった。
はさみ
「子供のころ、はさみは切れにくいものだと思っていたんです。ある時、右手で持って切ったら、切れ味の鋭さにびっくりしました」
定規
「定規は左側に0があるので、左から右に線を引きますよね。でも左利きは、右から左へ引くんです。だから、5cm引きたいなら『10−5』など、頭で引き算をしながら線を引く必要があってめんどうくさいんです」
トランプ
「数字のマークは左上と右下にあります。例えば、ババ抜きをするとき、左手で持って、扇形に広げますよね。ズラッと左上に数字が見えるので一目でわかる。これが、左利きの人がトランプを右手に持って広げると、数字が隠れてしまう」
パソコンのマウス
「初期設定が右利き用になっていますし、パソコンの右に置きますよね」
包丁
「左手で切ろうとすると滑ります。特にキャベツの千切りは、強くそう感じますね。バターナイフにもいえます」
おたま
「片側が注ぎやすいように細くなっています。左手で持つと、太いほうで注がないといけないから、非常にやりにくい」
左利きの偉人・有名人
宮本武蔵の二刀流は左利きを生かした戦法
「武蔵が左利きであったことは、彼の描いた絵の鑑定から明らか。二刀流で武蔵を超える剣士はついに出てこない。自らの利点を生かした戦法を編み出すところに天賦の才を感じます」(歴史家・加来耕三さん)
エジソン、夏目漱石、オバマ大統領、レディー・ガガも
左利きの著名人にはトーマス・エジソン、マリー・キュリー、夏目漱石、王貞治、バラク・オバマ、レディー・ガガなどがいる。小栗旬、二宮和也、水卜麻美、剛力彩芽、北川景子らも左利き。
レオナルド・ダ・ヴィンチも左利き
「脳科学的に興味深いのは、ダ・ヴィンチが左利きだったことです。左利きには数学系の天才が多いといわれています。ダ・ヴィンチの“万能”の鍵は、卓越した『イメージ思考力』と、『左利き』の合わせワザにあったと思われます」(脳科学者・澤口俊之さん)
ちなみに…
野球選手は右利きなのに左打者が多い
野球では左打者が有利なことが多いと言われることから、右利きでもバッターボックスに立つときだけは左利きにする選手もいる。「イチローに代表されるように左打者の多くは右投げ左打ち。右利きなのに左打者に矯正したもので、多くは打率を上げるのが目的です。内野安打も多く、イチローが右打者なら安打数は激減していたでしょう」(巨人などで活躍した元プロ野球選手・広澤克実さん)