女性総統はさっそく難しい舵取りを迫られそうだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
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台湾に蔡英文政権が誕生してから中国と台湾の関係は悪化の一途をたどってきたが、ここにきて両岸にとって新たな火種となる問題が持ち上がった。
昨年11月にケニアでオレオレ詐欺を働いたとして当局に身柄を拘束されていた台湾人の犯罪者グループが、有罪判決を受けた後に本国に送還されることとなったのだが、ここでケニア政府が犯罪者5人を出身地の台湾ではなく中国に送還してしまったのだ。
ケニアがオレオレ詐欺グループの犯人(台湾人)を中国に送るのはこれが初めてではない。今年4月には45人を送り両岸関係を揺らしている。だが、今回の送還が前回より深刻だと考えられるのは、中国との関係が安定していた国民党ではなく、対立する民進党が中国との交渉に当たらなければならなくなったことだ。
台湾は今年、蔡総統の誕生から「一つの中国」についてどのような態度を示すのかについて注目され続けてきた。中国共産党と国民党が「一つの中国」で合意したとされる「92コンセンサス」に対し、これを認めるとはっきり宣言しない蔡英文政権に中国が不信感を高めてきていたのだ。しかし、台湾独立を党是とする民進党を率いる蔡英文は、「一つの中国」を認めることも「92コンセンサス」を守るとも口にすることは避けたい。
つまり台湾の人々が圧倒的に支持する中国との関係である「現状維持」を続けながら、党綱領とも矛盾しない選択をしようとすれば、この問題をあいまいにしておくのが最良の選択であった。
しかし今回、ケニアが犯罪グループを中国に送り返したことで台湾は、中国に歩み寄って台湾人を取り返すのか、それとも民進党の党是を曲げないのかという厳しい選択を迫られてしまったのだ。
「あいまい」な対応が許されなくなってしまった蔡英文政権がどうするのか。今後の対応が注目される。