8月29日は「焼肉の日」だ。全国各地でもっとも焼肉にお金を使う都道府県はどこか。もっとも使わない県は? 食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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8月29日、年に一度の「焼肉の日」だ。全国の焼肉店がさまざまな趣向を凝らしたイベントやキャンペーンを行う。もっとも多いのは割引サービスだ。とりわけ関西地方の焼肉店では割引キャンペーンが数多くの店で展開される。
実は総務省が行っている家計調査で、2015年分から「焼肉」が前年まで統合されていた「洋食」カテゴリーから独立した。2015年の家計調査(総世帯)で各都道府県の県庁所在地及び政令指定都市における、年間消費支出額は以下のようになっている。
1位 大阪市 1万1833円
2位 福岡市 1万0291円
3位 松江市 9434円
4位 福井市 9061円
5位 金沢市 8849円
ちなみに同調査の「2人以上の世帯」では1位熊本市1万1556円、2位高知市1万0231円、3位福岡市1万0110円となっていて、大阪市は6051円と上位20位にも入っていない。
つまり大阪は単身者の焼肉は外食が多いが、2人以上の世帯となると少なくとも外食で焼肉には行かなくなる。さすが「一人焼肉」の聖地といったところか。
他の項目を見ても、大阪市は「一般外食」費も総世帯だと23万6733円と川崎市の24万8904円に続く全国2位だが、2人以上の世帯になると16万7189円と上位10位から外れてしまう。焼肉が象徴的ではあるが、家族の形によって外食費の使い方が変わるのが大阪ということのようだ。
焼肉に話を戻すと、ちなみに2015年の家計調査(総世帯)でもっとも焼肉にお金をかけていない都市は次の通り。
1位 長崎市 1819円
2位 新潟市 1867円
3位 福島市 2802円
とりわけ長崎市と新潟市の突出ぶりが際立っているが、2000円代以下に抑えられているのはこの2市のみ(全国平均は5876円)。両市に共通するのは魚介の名産地であることと、地元で長く愛される名物グルメが多いこと。長崎ならちゃんぽん、皿うどん、トルコライスなど。新潟もイタリアン、鶏の半身揚げ、タレカツ丼など両市とも地元民が足繁く通う名物グルメを提供する店が市内に数多くある。どちらも外国との交易が盛んな港町で、長崎なら中華、新潟なら洋食の名店も多い。
そういえば、この両市で焼肉店に足を運んだことはいまだかつてない。他に行かねばならない店がまだまだたくさんあるからだ。
いまだ続く肉ブームのなか、迎える2016年の焼肉の日。あふれる情報のもとフラット化が進む飲食業界では、今日も知恵をギュウギュウに絞っての差別化や業態開発が行われている。だがそのうち、10年後も生き残っている店は何軒あるだろう。
僕たちが求めているのは、「誰も食べたことがないもの」でも「誰もが食べているもの」でもない。「そのとき、そこでしか食べられない」一期一会がほしいのだ。スクラップ&ビルドを繰り返して均一になっていく食べ物なんてまっぴらごめんだ。だから今度、大阪に行ったら、焼肉を食べよう。きっとそれは何かの記念日でもない、普通の日だと思うけれど。