保守論壇を盛り上げてほしい
月刊誌「WiLL」(WAC)は、2004年の創刊以後、保守言論をリードしてきたオピニオン誌だが、今年4月、花田紀凱編集長を含む同誌の編集メンバーが飛鳥新社に移籍し、「月刊Hanada」が創刊された。突然のバトル勃発だ。中身も装丁も似通う二誌は書店に並ぶとうり二つ。読者を大いに戸惑わせたに違いない。そこで、保守論壇で活躍する評論家・古谷経衡氏がこの騒動を解説する。
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新体制下でのWiLLに突如事件が起こる。評論家の西尾幹二氏と、阪大名誉教授の加地伸行氏との対談記事「いま再び皇太子さまに敢えて諫言申し上げます」を不敬だとして、市ヶ谷のWAC本社に24歳の右翼団体構成員の青年が突入、消火器やスプレーなどを撒きちらした挙げ句自首し、御用となった。
編集部に部員がいない休日を狙った計画的な犯行である。くだんの対談の骨子は、2008年からWiLLなどで展開された西尾氏の持論(皇太子殿下が雅子妃殿下を擁護していることを辛辣に指摘したもの)を再度開陳したものであるが、24歳の右翼青年は10年近い前に論争、保守論壇で話題になったこの事を知らないのだろう。暴力で言論を威嚇しようという行為は断固許されない。
このように分裂騒動以降、保守論壇の内外に様々激震をもたらしたWiLLとHanadaの両誌分裂は、現在では表面上、波静か。
例えば話題の菅野完氏の『日本会議の研究』(扶桑社新書)で日本会議の中枢メンバーとして、現政権の政策にも影響を及ぼしていると名指しされた明星大学特別教授の高橋史朗氏はWiLL上で具体的な反証記事を寄稿。Hanadaでは日本会議会長で国家基本問題研究所の田久保忠衛副理事長が「日本会議批判への批判」を緊急寄稿するなど、両誌、機を見るに敏な編集方針を貫徹している。
私はよく産経新聞と東京新聞を読み比べているが、「保革」の比較は最初から結論がわかりきっていて面白くない。
「保保分裂」ではなく「保保切磋」と捉えて購読し、微妙なセンスと美学の違いを誌面から感じ取れるリテラシーが保守系読者に育まれるのだとしたら、分裂騒動も「読者にとっては」益となる。
※SAPIO2016年9月号