「十分に長く生きた。あとはせめて穏やかに逝ければ」──そんな、ささやかな願いも、カネがなければ叶えられない。「死に方格差」は拡大する一方で、現役引退後の収入や貯金額によって、入ることのできる施設、受けられるケア、家族との関係性まで大きく変わってしまう。
本当は特養(特別養護老人ホーム)に入れればいいんだが……。都内に住む70代のYさんは、昨年冬に一人暮らしの自宅で転倒し、大腿骨を骨折して都内の総合病院に入院した。
手術を受け、リハビリを続けて症状が安定すると、病院を出なければならなくなった。しかし自宅へ戻ろうにも、面倒を見てくれる人はいない。妻には数年前に先立たれ、離れて暮らす息子夫婦も時間的・経済的な余裕はない。
当然ながら、施設への入所が選択肢として挙がったが、民間の有料老人ホームは軒並み月額20万円以上。年金とわずかな貯金ではとても賄えないし、子供からの援助も期待できそうにない。一体、どこが終の棲家になるのか──。
収入や貯蓄がどれだけあるかで、その人の「死に方」が大きく変わる。そうした現実が目の前にある。
本来であれば、公的補助によって整備された特養が死に場所を見つけられない人にとっての“セーフティネット”として機能すべき存在のはずだ。月額8万円程度から利用できる特養であれば、冒頭のYさんのケースでも入居費用はなんとか捻出できる。
ところが、現実には特養に入りたいと申請をしたのに、入居できずにいる「待機老人」が52万人もいる。入居申請を出さずに諦めてしまった高齢者も少なくない。実際には特養に入りたくても入れない人がさらに数万から数十万規模でいると指摘する専門家もいる。