ライフ

マンガの神様も読んだ「劇画誌の黄金時代」を亀和田武氏懐古

伝説の自販機雑誌「劇画アリス」

 新たな才能は“エロ”から生まれた。既存の価値観や流通システムさえ“エロ”が揺るがした。なぜ、その無秩序な表現は、三流劇画雑誌から生まれたのか。1977年に創刊された伝説の自販機雑誌「劇画アリス」初代編集長・亀和田武氏が懐古する。

 * * *
 かつて“エロ劇画誌”の黄金時代があった。どの頁を開いても、女の裸と性行為を描いたものばかり。そんな雑誌が月に百誌、いや本誌と増刊もあわせれば、優に二百誌は書店や私鉄の売店、そして自動販売機で売れに売れていた。

 ピークは1970年代の後半だ。最初の予兆は「漫画エロトピア」(KKベストセラーズ)が、エアブラシを使い垢抜けたヌードを表紙に配し、さらに豊満な人妻を描かせたら右に出るものなしの新鋭、榊まさるをメインに起用し、部数が急上昇した1975年か。

 榊まさる、エロかったなあ。胸と尻、くびれのラインを強調し、着衣のままでも充分にヤラシい。宇能鴻一郎のコミック版というべき明朗な作風だが、絵の巧さで青少年から中年まで、広い層の劣情を刺激した。

 直後に石井隆が鮮烈な登場を飾ったとき、あの『がきデカ』の作者である山上たつひこは「うーむ、石井隆はすごい。榊まさるもすごいが、石井隆はもっとすごい」と作中で呟いた。

 それまでの青年コミック誌は、一流が「ビッグコミック」「漫画アクション」「ヤングコミック」。二流は「プレイコミック」「漫画サンデー」などで、残りが三流以下というヒエラルキーが固定していた。

 三流、四流になるほど、裸のシーンは多くなる。しかしマンガ家は下手だし、編集者もやる気がないから、裸を描いてもエロくない。お色気コミック、ピンク漫画という呼称がぴったりの、時代遅れの野暮ったい作品ばかり。

 こんなとき「漫画エロトピア」の部数急増は、業界の目を惹いた。さらにこの時期まで、吉行淳之介ふうにいえば俗悪不良誌の最大収入源だった“実話雑誌”の売り上げが急落した。

 実話とは名ばかりで、エロな与太記事と、オバさんがセーラー服を着た写真を載せた実話誌は、同時代の風俗から20年遅れていた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

同僚に薬物を持ったとして元琉球放送アナウンサーの大坪彩織被告が逮捕された(時事通信フォト/HPより(現在は削除済み)
同僚アナに薬を盛った沖縄の大坪彩織元アナ(24)の“執念深い犯行” 地元メディア関係者が「“ちむひじるぅ(冷たい)”なん じゃないか」と呟いたワケ《傷害罪で起訴》
NEWSポストセブン
電動キックボードの違反を取り締まる警察官(時事通信フォト)
《電動キックボード普及でルール違反が横行》都内の路線バス運転手が”加害者となる恐怖”を告白「渋滞をすり抜け、”バスに当て逃げ”なんて日常的に起きている」
NEWSポストセブン
入場するとすぐに大屋根リングが(時事通信フォト)
興味がない自分が「万博に行ってきた!」という話にどう反応するか
NEWSポストセブン
過去の大谷翔平のバッティングデータを分析(時事通信フォト)
《ホームランは出ているけど…》大谷翔平のバッティングデータから浮かび上がる不安要素 「打球速度の減速」は“長尺バット”の影響か
週刊ポスト
16日の早朝に処分保留で釈放された広末涼子
《逮捕に感謝の声も出る》広末涼子は看護師に“蹴り”などの暴力 いま医療現場で増えている「ペイハラ」の深刻実態「酒飲んで大暴れ」「治療費踏み倒し」も
NEWSポストセブン
初めて沖縄を訪問される愛子さま(2025年3月、神奈川・横浜市。撮影/JMPA)
【愛子さま、6月に初めての沖縄訪問】両陛下と宿泊を伴う公務での地方訪問は初 上皇ご夫妻が大事にされた“沖縄へ寄り添う姿勢”を令和に継承 
女性セブン
中村七之助の熱愛が発覚
《結婚願望ナシの中村七之助がゴールイン》ナンバーワン元芸妓との入籍を決断した背景に“実母の終活”
NEWSポストセブン
松永拓也さん、真菜さん、莉子ちゃん。家族3人が笑顔で過ごしていた日々は戻らない。
【七回忌インタビュー】池袋暴走事故遺族・松永拓也さん。「3人で住んでいた部屋を改装し一歩ずつ」事故から6年経った現在地
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
“極度の肥満”であるマイケル・タンジ死刑囚のが執行された(米フロリダ州矯正局HPより)
《肥満を理由に死刑執行停止を要求》「骨付き豚肉、ベーコン、アイス…」ついに執行されたマイケル・タンジ死刑囚の“最期の晩餐”と“今際のことば”【米国で進む執行】
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン