一般に医者が患者に告げる「余命」の数字は、その人の残りの寿命を指すわけではない。ある病気の「生存期間中央値」なるものを告げるケースが大半で、患者の病状を斟酌して決められるものではない。
「がん生存率」も多くの人が誤解している代名詞だ。現在、がん治療の現場で最も広く用いられているのは「5年生存率」だ。がん治療を始めてから5年後に生存している人の割合を示したものだ。千葉県がんセンター研究所・がん予防センター部長の三上春夫氏がいう。
「全国がん(成人病)センター協議会の最新調査では、全部位・全ステージのがんの平均5年生存率は69.1%となっています。約7割の人が5年経過した後も生きている。ただし、このデータが示しているのはそれだけです。誰がこのデータに当てはまるか分からないし、あくまで参考値として見るしかない」
このケースも余命宣告における生存期間中央値と同じく、問題は多くの患者が「死へのカウントダウン」と捉えてしまっているところだ。
例えば、胃がんのステージIIIでの5年生存率は45.5%だが、多くの患者は“自分も5年後に5割以上の確率で死ぬ”と考えてしまうという。
町田実さん(仮名・66)の妻は3年前、膵臓がんと診断された。その時、医師から「すでにステージIVで、外科手術は不可能な状態。抗がん剤治療しか選択肢はない。5年生存率は7.7%です」と告げられたという。
「“苦しい抗がん剤治療を続けても5年も生きられない”と悲観した妻は、通院をやめてしまい、怪しげな民間療法に頼るようになったのです。“これでがん細胞が消えた人がたくさんいる!”と嬉しそうに話し、勧められるままに高額の“エネルギー水”のようなものだけを口にするようになった。
結局、告知から1年も経たずに妻は亡くなりましたが、西洋医学を否定して痛み止めも飲まなかったので、最後は苦痛にのたうち回りながら死んだ。安らかな最期を迎える方法はいくらでもあったと思います」
※週刊ポスト2016年9月9日号