葬式に来てくれる人が誰もいない──当人はすでにこの世にいないにせよ、これほど寂しい死に方はない。72歳の製造会社元役員はこう語る。
「うちの会社はOB会組織があるが、それでも“○○さんが亡くなられました。ご冥福をお祈りします”と何か月か後に事後報告があるだけで、ほとんど誰も葬儀には出ていない。私の場合も、同じような形になるでしょう。家族以外の参列者などいないから、葬式は家族葬にするしかない。
家内が私の交友関係を知ろうとしても、手掛かりは年賀状しかない。ただ、最近は『これが最後の年賀状にしたいと思います。来年は私からは送らないので、貴殿も送らないでほしい』というのがやたらと多い。年賀状は年々減る一方で、私の交友関係の手掛かりもどんどんなくなっている」
74歳の元建設会社営業マンはこう言う。
「現役時代は接待だ、ゴルフだと派手に遊んでいたが、定年退職すると会社関係の付き合いはパタッとなくなってしまう。誰かの葬式に参列しても、知り合いが誰もいない。自分が入院してもお見舞いに誰も来ない。寂しい思いをしたくないので、逆に誰にも何も知らせないようになる。そんなことの繰り返しで、だんだん友達が少なくなっていく」
◆友達に頼るのが「恥の文化」
彼らの証言を裏付ける調査結果が出ている。今年5月30日に発表された、内閣府が5年毎に実施する「高齢者(60歳以上)の生活と意識に関する国際比較調査」の最新版だ。
その中で、「家族以外に相談あるいは世話をし合う親しい友人がいるか?」という問いに対し、25.9%が「いない」と回答している。実に、高齢者の4人に1人が「友達ゼロ」なのである。
この調査は、日本を含む4か国で実施されており、他の3か国の割合は、アメリカで11.9%、ドイツで17.1%、スウェーデンで8.9%と、日本だけが突出している。つまり、「日本の老人は世界一友達が少ない」といえる。
また、「同居の家族以外に頼れる人はいるか?」という問いに「いない」と答えた割合も、日本の高齢者(16.1%)が最も高かった。
なぜ、日本と海外でこれほど差が出るのだろうか。東京家族ラボの主宰で家族問題コンサルタントの池内ひろ美氏はこう分析する。
「60歳以上の世代は、高度経済成長期のなかで、長時間勤務、サービス残業、休日出勤が当たり前で、地域の触れ合いが少なかった。海外では、キリスト教は教会、イスラム教はモスクを中心とした宗教コミュニティがあるが、日本にはそれもない。また、日本には村社会の『恥の文化』があり、相談することが恥をさらすことになる。他者を頼るという土壌がないのです」
※週刊ポスト2016年9月9日号