カウンター席に座ると、一人で板場を切り盛りする渋谷牧子さん(34才)の仕事ぶりがよく見える。1皿1皿作品を作り上げるように丁寧に仕上げる表情は真剣そのもの。一方、母で女将の治子さん(66才)は、初めての客にも常連にも人懐こい笑顔で給仕して回る。
「もとは私と夫が開いた日本料理店でした。夫は腕のいい板前でしたが、15年前の年末、突然板場で倒れてしまって…」(治子さん)
絶望する間もなく店主となった女将は、板前を雇い、無我夢中で10年余り走り続けた。そして昨年、次女である娘・牧子さんが後継を申し出る。牧子さんは、インテリア関係の仕事で店舗の内装などに携わる中、「店を持つ」ことの魅力に引きこまれたのだという。ただ、本格的な料理の経験はないに等しかった。
「父に直接、料理を教わったことはありません。でも小さい頃から本物の味を父の料理を食べて覚えてきました。今思えば、これが私の中にある父の教えです」(牧子さん)
牧子さんが継ぐにあたり、メニューは一新。豚の角煮などのメニューは、先代の時代にはなかったものだ。
「夫の料理を愛してくださった常連さんにも合格点をいただけるようになり、ホッとしています。経験が浅いから、孤軍奮闘する姿を見るとやっぱり心配。でも今は、父親譲りの手際や勘のよさに、頼もしさを感じることが多くなりましたね」(治子さん)
居心地のよさから、女性の一人飲み客も多いという。「いつまでもアットホームな雰囲気を大切に」という母と、「一人静かに飲んだり、時々はお隣のお客様とおしゃべりしたり、カフェのような店になっていければ」という娘。新旧の融合もまた、この店の魅力でもある。
●創業年:1997年(母娘経営は2015年~)
●店名の由来 女将の夫で先代の渋谷俊彦さんが腕を奮う「お膳」という意味で、名前の彦と膳から
●母→娘「亡夫に似て、厳しい職人気質で男前。頼りにしています」
●娘→母「どんなお客様の心もすぐ開いてしまう人。懐の深さ、見習いたい」
●おすすめメニュー 【1】いわしの酢漬けと玉ネギ 【2】豚の角煮と煮卵 【3】彦膳名物・焼きおにぎり
【住所】東京都新宿区西新宿4-36-13
【営業時間】11:30~14:00、17:30~21:30
(土曜は17:00〜20:30のみ)
【休日】日曜、祝日、第3水曜
※女性セブン2016年9月15日号