5年前に妻と死に別れた吉田さんは都内のアパートで一人暮らしだ。80歳を前にして自分で家事もこなしていた。吉田さんの姿をここ1週間ほど見かけない。地域住民の知らせを受けた民生委員が訪問すると、吉田さんは風呂場で亡くなっていた。
亡くなってから数日が経過しており、遺体の腐敗もみられた。吉田さんは自宅での「異状死」として、東京都の監察医による検死解剖の対象となった。
その後、荼毘(だび)に付そうにも火葬場は1か月の順番待ち。仕方なく吉田さんの亡骸は民間葬儀社の用意したタワー型の巨大遺体安置所に仮置きされた。手続きが終わり、担当の民生委員はポツリとつぶやいた。
「今月、もう40人目の異状死だよ……」
──2025年。そうした光景は全国いたるところで見られるだろう。1947年~49年に生まれた、いわゆる団塊の世代は約700万人。
厚生労働省によれば、この世代が全員後期高齢者となる2025年には、75歳以上の人口が2179万人となり、全人口の18%を占めると推計されている。独り暮らし高齢者世帯は2010年の498万世帯から701万世帯に膨れ上がる。医療や介護を必要とする人が爆発的に増えるのは必至だ。
全国の病院のベッド数は現在、約135万床。各都道府県の推計を積み重ねると、高齢者の急増に対応するには2025年までに約152万床が必要だとされている。
ところが、である。国は病院のベッド数を減らす方針なのだ。国際医療福祉大学大学院教授で医師の武藤正樹氏はこう解説する。