デフレのあおりを受けて、低迷が続く外食産業。そのなかで、この10年間、右肩上がりを続けているのが「回転寿司」だ。その好業績の裏では、まさに“なんでもアリ”の熾烈な争いが繰り広げられていた──。
この数年で回転寿司のチェーン店の様子は一変した。カウンター席の隣に並ぶボックスシートは若い家族連れで溢れ、カップルや女性のグループ客も目立つ。
座席には注文用のタッチパネルがあり、女性客を中心に「私はトルティーヤ」「デザートはパフェがいい」「かき氷も!」といった会話が飛び交う。寿司の話題はあまりない。
寿司が乗った皿がゆっくりと目の前を回っていく光景も今は昔。レーンは一直線で、動くのは客が注文をした時だけ。注文したネタが客の目の前まできたら、レーンが止まる。“気がついたら取りたいネタが前を通り過ぎていた”“欲しいネタがパリパリに乾いていた”なんてことは起こらない店舗が少なくない。回転寿司評論家の米川伸生氏がいう。
「いまや回転寿司店は総合レストラン化し、極端にいえば寿司はメイン商品ではなくなっている。老若男女がターゲットなので、安心安全への取り組みは不可欠。各社ともHPでネタの原産地を表示しているし、『くら寿司』では、養殖でどんな餌を食べさせているかまで表示しています」
そうした競争は客にとっても歓迎すべきものだが、「回転寿司は飲食業界の中でも原価率が高いことで有名。人件費を抑えるために、アルバイト店員がロボットの作るシャリにネタを乗せているチェーンもあります」(広告代理店関係者)という。安さの陰には、様々な工夫もあるようだ。
とはいえ、安売りとサイドメニュー競争では各社とも消耗戦で疲弊してしまうのではないか。米川氏は「今後は各社が独自の強みを伸ばせるかが勝負」とみる。
「各社ともに“色”はある。鮮度がウリの『スシロー』は原価率が50%を超え、高級なネタを扱ってきた。『くら寿司』はエンターテインメント性を追求し、『はま寿司』は平日1皿90円が支持されている。『かっぱ寿司』は安さを出すか高級志向かで“ブレ”があり、4位に落ちた。いまは失地回復に懸命です。各社は、それぞれの特徴を伸ばす工夫を重ねていくでしょう」
各社に取材を申し込んだが、某チェーンからは、「単独での取材には協力するが、〇〇(某チェーン店)との比較記事は原則お断わりしている」とライバル意識剥き出しの回答。熾烈な競争が味やサービスの向上につながることを期待したい。
※週刊ポスト2016年9月16・23日号