厚生労働省によれば、700万人といわれる団塊の世代が全員後期高齢者となる2025年には、75歳以上の人口が2179万人となり、全人口の18%を占めると推計されている。独り暮らし高齢者世帯は2010年の498万世帯から701万世帯に膨れ上がる。医療や介護を必要とする人が爆発的に増えるのは必至だ。
全国の病院のベッド数は現在、約135万床。各都道府県の推計を積み重ねると、高齢者の急増に対応するには2025年までに約152万床が必要だとされているが、国は病院のベッド数を減らし在宅での介護などを増やす方針なのだ。問題は、自宅では十分な医療や介護を受けられない可能性が高いということである。
在宅で死ぬには、訪問医や訪問介護士・看護師などのケアを受ける必要がある。そのマンパワー不足が深刻なのだ。厚生労働省福祉基盤課・福祉人材確保対策室の試算によれば、2025年には需要に対して38万人の介護人材が不足する。
加えて、介護サービスを受けるためのお金が払えない人も急増するとみられている。『2025年、高齢者が難民になる日』(日経プレミア)の著者で法政大学経済学部教授の小黒一正氏はこう警鐘を鳴らす。
「厚労省の示す社会保障の給付と負担の最新の見通しだと、現在は医療と介護を合わせて約50兆円のお金がかかっています。これが2025年には75兆円に膨れ上がる。増えた25兆円分を工面するために介護保険の自己負担増が議論されています。
現在、一般的な高齢者(年収280万円未満)は1割負担ですが、これが2割負担になり、2025年には3割負担になったとしてもおかしくありません」
要介護3の高齢者を例にとると、現行制度における自己負担の上限は月額約2万7000円。これが3割負担になると一気に8万円を超える。国際医療福祉大学大学院教授で医師の武藤正樹氏はこう解説する。
「特に、家賃の高い都心で賃貸物件に住んでいる人は、年金だけでは回せなくなる。“要介護度は高いけど限度額いっぱいまでのサービスは使えない”という人が続出するでしょう」
保険を使った介護サービス利用を諦める人が出てくるというのだ。そうなれば、介護負担は家族にのしかかる。介護サービス情報などを掲載する『月刊 あいらいふ』編集長の佐藤恒伯氏はこう話す。
「年老いた夫婦がお互いを介護する。高齢の親を高齢の子供世代が介護する。そういった、いわゆる老老介護が、とくに核家族化の進んだ都市部でいま以上に増えるでしょう」
伴侶を看取れば、残された者は孤独死のリスクと向き合うことになる。
※週刊ポスト2016年9月16・23日号