東京と大阪という二大都市に挟まれて、独特の文化を築き上げたのが名古屋だ。調べれば調べるほど彼の地の文化は独特で、「日本のガラパゴス」と呼ぶ人も時にいるほど。それが最も顕著に表われているのが「食」だ。
名古屋に赴任した多くの人が嘆くのが、「食べ物に関する会話」だという。そもそも名古屋はじゃんけんのチョキを「ピー」、自転車を「ケッタ」と呼ぶなど、地元民にしか理解できない独特の呼称が多い。埼玉県出身の30代男性が不満そうに打ち明ける。
「名古屋人の食べ物の会話は特殊な表現が多くてサッパリ意味がわからない。まるで暗号を聞いているみたい(苦笑)。例えば、夏の名古屋めしの『ころ』です」
「ころ」とは、冷たいうどん・きしめんのこと。これに天ぷらを乗っけた「天ころ」が夏の逸品である。
「『ころ』はざるそばのツユにうどんやきしめんが浸かっているような食べ物で、普通の冷やしうどんよりも味がメチャメチャ濃い。天ぷらを入れると値段がハネ上がるので、節約好きな名古屋人にとって『天ころ』はここぞという時に食べる贅沢品です」(『名古屋あるある』共著者の川合登志和氏)
名物であるあんかけスパゲティには、さまざまな種類があるが、定番メニューといえば「ミラカン」だ。
「通常のあんかけスパに、ソーセージと野菜類をトッピングしたのがミラカン。肉類トッピングを表わす『ミラネーゼ』と野菜トッピングの『カントリー』を合わせた造語です」(川合氏)
名古屋の台所に欠かせないのが地元ブランドの「イチビキ」。醤油、味噌、みりんなどほとんどの調味料をそろえ、前出の味噌チューブ『献立いろいろみそ』もイチビキの商品である。『ころ』『ミラカン』『イチビキ』。どれも名古屋人でなければ耳馴染みのない言葉である。
※週刊ポスト2016年9月9日号