世界的な金融政策の流れが日本株の相場展開に大きな影響を与えているが、そこに潮目の変化が現われようとしている。海外投資事情に詳しいグローバルリンクアドバイザーズ代表・戸松信博氏が解説する。
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世界的な低金利が続いている。すでにマイナス金利に突入している日本の10年国債利回りをはじめ、7月にはドイツ10年国債、米国10年国債と日独米の金利が揃って過去最低を更新した。実に世界の約半分の国債がマイナス金利という状況にあるのだ。
そうしたなかで米国は不動産価格が高騰するなど、好景気時の低金利状態が追い風となり、インフレ期待の高まりから株高が続く好環境にある。
また、中国の人件費上昇に伴って東南アジアをはじめとする新興国も堅調。不振の続いてきた中国も不動産価格や自動車販売台数が上向くなどようやく好転しつつあり、新興国にもマネーが流入。米国主導で世界的な株高が望める展開となっている。
その一方で、日欧の株価が振るわない。欧州は英国のEU離脱による景気減速懸念もあるが、最大の理由は金融緩和をしても財政出動が弱い点にある。2012年に欧州は財政健全化に向けて財政の均衡化に舵を切り、緊縮財政が続いている。
同じく日本でも2012年の民主党政権時代に3党合意した「社会保障と税の一体改革」によって財政収支の均衡が進み、政権交代後も日銀が金融緩和に踏み切るなか、消費税増税が景気の足を引っ張る結果となっている。
しかし、ここにきていよいよ潮目は変化しようとしている。
日本や欧州がマイナス金利となるなど大規模な金融緩和が続くなか、世界的な「大緩和時代」は当面継続する見込みで、世界中にあふれたマネーが投資チャンスを窺っている環境に変わりはない。
現時点では、その多くが米国株や東南アジア株に流れ込んでいる格好だが、日本株にも状況さえ整えば、一気に資金流入する可能性がある。
実際、今年に入ってからも、4月には東証マザーズ指数が9年3か月ぶりの高値を更新、7月には『ポケモンGO』人気で任天堂の株価が2倍以上に急騰し、関連銘柄も賑わったように、成長期待の高い分野にはマネーが一気に流れ込むのだ。
そこで注目したいのが、7月29日と8月2日に矢継ぎ早に打ち出された日銀の「追加金融緩和」と28兆円規模に上る政府の「経済対策(財政出動)」だ。
追加緩和は期待された国債の買い入れ増額こそなかったものの、ETF(上場投資信託)買い入れ額拡大(年間3.3兆円→6兆円)が今後、株価を押し上げてくるのは間違いない。過去の外国人投資家の買い越し額と日経平均株価へのインパクトから試算すると、おそらく年間では2000円近い下支え効果があるだろう。
また今回の発表でもうひとつ見逃せないのは、成長支援資金供給・米ドル特則(企業の海外展開を支援するため最長4年の米ドル資金を金融機関経由で供給する制度)の総枠を現行の120億ドルから240億ドルに拡大したことだ。
これによって企業や金融機関の外貨調達環境が安定すると見られ、同時に外国人投資家による日本国債買いを抑制する動きにつながった。現に日銀の発表後に国債価格は下がり、金利が上昇(マイナス金利幅縮小)し、結果として負担が縮小する銀行株が大きく上昇した。
つまり、今回の追加緩和は株価対策につながっており、規模の問題はさておき、方向性としては悪くない。
あとは日銀や政府がどれだけ本気で追加政策を打ち出してくるかにかかってくるだろう。たとえば日銀が、ETFの買い入れ額を年間10~15兆円まで増額させれば、日経平均には年間4000~5000円の押し上げ効果が期待できる。今後の追加政策次第では、年内に日経平均2万円も十分あり得る、と見ている。
※マネーポスト2016年秋号