日本人の死因1位のがん。体のあちこちに「転移」してしまうケースもある。「もう手術はできない」となった時に、どのくらいの痛みや苦しみが待っているのか──「全身がんだらけ」という死に方の実態に迫った。
病院で検査をし、がんが体中に転移していると告げられたときの患者の心境について、作家で医師の米山公啓氏はこう説明する。
「いまはがんの情報があふれているので、全身に転移していれば“もう手の施しようがない”と、精神的ショックを受ける患者さんは少なくありません」
手術を選択しても、なかなか気力は続かない。違う部位のがんで3度の手術を経験している元お笑いコンビ「ゆーとぴあ」のホープ氏(66)はこう表現する。
「8年前に大腸がんがみつかり、内視鏡手術で切除したのですが、その6年後に血痰が出るようになった。がんセンターで検査したら8センチ大の肺がんがみつかって、8時間の大手術。それで成功したのに、半年後に小腸と胃のがんが見つかりました。食事が喉を通らず、便も出なくなった。3度目の手術後は身体に10本以上のチューブをつながれ、もう生きたいとも思わなかった」
元巨人軍投手で、現在はうどん店を経営する横山忠夫氏(66)は、17年前に末期の大腸がんを切除し、その半年後、肝臓への転移がみつかった。それも切除したが、それから1年も経たないうちに、今度は肝細胞がんがみつかったという。
「病院が悪いわけではないですが、2回の手術後は毎月血液検査を受けていたので、余命3か月から半年と告げられたときはショックだったし、『なんでだよ、ずっと病院に通っていたじゃないか』と悶々とした気持ちが何日も続きました」
“がんだらけ”という状況を、冷静に受け入れられる人は少ない。その不安はどうすれば乗り越えられるのか。
「最初は信じようとしない人もいるが、医者を替えて診てもらううちに認めざるをえなくなり、精神的にも安定してくる。つまり“受け入れる”ということです」(前出・米山氏)
※週刊ポスト2016年9月16・23日号