大相撲の力士は本場所が終わると、次の場所までの間、地方での興行に出かける。年6回の本場所以外の興行は「花相撲」と呼ばれ、中でも人気が高いのが生の相撲が見られる「巡業」だ。
巡業は春(4月)、夏(8月)、秋(10月)、冬(12月)の年4回。大阪場所後の春巡業は伊勢神宮での奉納相撲でスタートし、近畿、東海、関東を回り、靖国神社の奉納相撲で締めくくる。名古屋場所後の夏巡業は地方巡業では最も長く、信越、東北、北海道を中心に約1か月間。食べ物も旨く、気候も良いことから最も稽古が充実するといわれる。秋巡業は関東、東海、北陸、関西、中国、四国と巡り、九州場所後の冬巡業は九州、沖縄で開催される。
巡業の日数や開催地に決まりはない。だが本場所が終わった地から、スムーズに移動できるように組まれている。これも交通手段が発達していない時代の名残といえる。
現在の巡業は、地元の企業や有力者が勧進元(興行主)となって行なわれる契約興行(勧進元への売り興行)。全国から引き合いが多ければそれだけ巡業の開催数も増えるので、巡業の興行数は相撲人気のバロメーターとなっている。
今年は若貴ブーム以来の相撲人気といわれる昨今の追い風に乗り大盛況。最大で年間65日といわれるが、すでに秋巡業までに61日(冬巡業は未発表)が決まる超過密日程だ。巡業が増えるほど協会は潤うので、できるだけ詰め込もうとするのもその一因だ。
この過密日程による力士たちへの負担増、長距離移動による健康面の不安などは角界で問題視されている。また現在は1日興行が中心で、以前のような同じ場所に留まる2日、3日興行が少なく、稽古量の減少も指摘される。巡業部・副部長の玉ノ井親方(元大関・栃東)はこう語る。
「日程が立て込んでおり移動も大変だが、普段稽古ができない力士が一緒にいるわけで、強い人の胸を借りたり動きを研究したりするには絶好の機会となる。また巡業の目的の1つは会場で大勢のファンと触れ合うこと。それらを肌で感じて、それぞれが本場所の土俵で成果を出してもらいたい」
撮影■小笠原亜人矛 取材・文■鵜飼克郎
※週刊ポスト2016年9月16・23日号