わが国は先進国でも珍しく死刑制度を維持している。国民の支持も高い。なぜなのか。死刑制度反対論者のコラムニスト・オバタカズユキ氏が考える。
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自分の妻子が何の罪もなく誰かに殺されたらどうするか。凶悪事件や無差別殺人事件がおきたとき、よくそんなことを考える。
妻子を殺した殺人犯は逮捕された。裁判で死刑がくだされた。実際に刑も執行された。さて、それで自分の暴れる感情はおさまるだろうか……。
先日、日本弁護士連合会(日弁連)が死刑制度の廃止を掲げることを決めた。10月の「人権擁護大会」にて、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言案」を提出する。日弁連はかねてより死刑制度に批判的だったが、明確に廃止を打ち出すのは初めてのことらしい。
私は死刑廃止論者だ。けれども、日弁連の動きには唐突を感じる。相次ぐ冤罪や世界的潮流を受けて、ということだが、冤罪はそんなに増えている? 世界的にそうだから自分たちもそうする?
もっと分からないのは、宣言案の勝算をどう見積もっているかだ。死刑制度存続の声がまったく減っていない日本で、どう説得的に廃止の同意を得ようというのか。日弁連だけが国民の中で浮いてやしないか。
死刑制度の是非について、大規模に行われた調査に、平成26年度の「基本的法制度に関する世論調査」(内閣府)がある。それによると、「死刑もやむを得ない」と答えた者の割合が80.3%、「死刑は廃止すべきである」は9.7%。
「やむを得ない」という消極的選択肢は、「すべきである」という積極的選択肢よりも選びやすい。その問題があるにしても、8:1の差はすごい。他の調査でも、この国の死刑制度は一貫して支持されている。
冤罪の怖さや、殺人事件が増えていないデータや、死刑制度がたいして殺人の抑止効果をもたない現実などを、死刑廃止論者がいくら訴えても、存続支持の世論は揺らいだことがなかった。
先進国では死刑制度を廃止した国のほうが多いのに、なぜ日本では支持が強いのか。これも「基本的法制度に関する世論調査」が調べている。
死刑制度に関して、「死刑もやむを得ない」と答えた者にその理由を聞いたところ、「死刑を廃止すれば、被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」を挙げた者の割合が53.4%、「凶悪な犯罪は命をもって償うべきだ」が52.9%(複数回答可)。
命を奪った者は命をもって償え、より少しだけ、被害者家族感情のために、という理由のほうが多い。そう答えた人たちの少なからずはおそらく、私のように「もし自分の家族が殺されたら」と想像したのではないか。そして、「家族が殺されたのに、殺した犯人が生かされている」状態が頭の中に見えた瞬間、「冗談じゃない、死刑にしてくれ!」と思ったのではないか。