鉄道のホームから転落する事故が増加し続けている。2014年度のホームからの転落件数は3673件で、そのうち人身障害事故に至ったものは227件にのぼる(国土交通省調べ)。この事態は、ホームドアを設置すれば防げるものなのか。最新のホームドア事情と、ホームの安全性向上のためのユニークな取り組みについて、フリーライターの小川裕夫氏がリポートする。
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アメリカで一大旋風を巻き起こした「ポケモンGO」は、7月22日に日本にも上陸した。配信開始と同時に大ブームとなった一方で、周囲を忘れて熱中する人が多数出たことから、改めて”歩きスマホ”が問題視されるようになっている。”歩きスマホ”に対して、もっとも神経質になっているのが鉄道会社だろう。
混雑したホームで、乗客が何らかの理由で線路に転落してしまうことは決して珍しいことではない。”歩きスマホ”は、そうした乗客が線路に転落する危険性を増加させる。鉄道各社は「ポケモンGO」に対し神経質になり、ホームでは注意喚起するアナウンスが繰り返されるようになった。
しかし、いくら繰り返し注意を促しても、「ポケモンGO」ブームを止めることは難しい。注意喚起に効果がないとしたら、鉄道会社は実効性のある対策を講じるしかない。
転落事故防止の特効薬といえば、加速的に普及が進んでいるホームドアだ。皮肉なことに、「ポケモンGO」が引き金になってホームからの転落を防止するホームドアの設置は鉄道事業者にも鉄道利用者にも意識されるようになった。
日本の鉄道において、ホームドアは1974(昭和49)年に熱海駅の東海道新幹線ホームに設置されたものが嚆矢とされている。
熱海駅は地形的な問題もあり、新幹線が通過する際にホームで待っている乗客が風に煽られるという危険があった。そうした危険性を少しでも排除するため、熱海駅の新幹線ホームにホームドアが設置された。
鉄道関係者の間では、ホームドアは線路への転落防止・事故防止に絶大な効果を発揮するということが40年以上も前から認識されていた。それにも関わらず、なかなか設置は進まなかった。
その理由について、制御工学の専門家でホームドア研究の第一人者でもある須田義大東京大学教授はこう話す。
「ホームドアの普及が進まなかった理由は、いくつかあります。なによりもホームドアの導入で鉄道会社を悩ませたのが、ドアの数や位置が異なることです。各駅停車や特急など、列車によってドアの数が異なり、位置も違います。さらに悩ましいのが相互直通運転です。東京圏では当たり前のように複数の事業者による直通運転が実施されています。会社が異なれば、車両構造が異なるのでドアの位置は変わります。そうした事情が、これまでホームドアの設置を困難にしていたのです」
そうした課題を克服するため、須田教授はホームに入線してくる列車を事前に判別し、乗降位置を自由自在に変えられるホームドア「どこでも柵」を開発。「どこでも柵」は、秒速120~200ミリメートルで移動することができ、移動完了までの所要時間は15秒。「どこでも柵」なら、どんな列車にも対応できる。