「時代の転換期」と言われても、現在進行形で生きている人々がそれを実感することはほとんどない。しかし、昭和の終わりと現在、2つの時代の象徴的な出来事を並べてみると、今まさに大きな時代の節目を迎えているような気がしてならない。
1989年にはベルリンの壁崩壊で世界が激変、今年は英国のEU離脱表明などによって再び世界が変動の時を迎えている。
そうしたなか、日本の外交状況も当時と似ていると指摘するのは、元駐レバノン特命全権大使の天木直人氏だ。
「ベルリンの壁崩壊以前の日米同盟は、『共産主義に対抗する日米同盟』だったが、冷戦崩壊後は『世界の平和に貢献する日米同盟』に変質した。その完成形が昨年の安保関連法案です。また、バブル景気の発端は、円安ドル高に苦しむ米国を助けるためのプラザ合意(1985年)がきっかけでした。つまりバブル崩壊は対米従属外交の結果だったのです。
そして現在は、安保法案によって対米従属型の日米同盟が完成した。ところが、その米国は日本を守ることなど事実上放棄しており、ついには“日米同盟なんて無駄”と公言するトランプ氏が大統領候補になった。当時も今も日本は米国の都合によって崩壊への道を歩み出しているのです」
国内政治の分野では、政治評論家の有馬晴海氏がこんな共通点を指摘する。
「1989年も今年も、どちらもその前年に自民党政権が強行採決を行なっている。1988年に消費税法案、2015年には安保法案です。共通しているのは、どちらも政権が抱えていた負の課題だったことと、自民党政権が数の力で強引に採決したこと。しかし、消費増税は景気を低迷させたため、自民党に批判が集まり、積もり積もって政権交代につながった。同様に安保法案の強行採決の影響が今後、一強に見える自民党に跳ね返ってくることは大いにあり得ます」
自民党政権がこの世の春を謳歌しているうちに、“驕れる者は久しからず”と呼ばれるような事態が、深く静かに進行しているのかもしれない。
※週刊ポスト2016年9月16・23日号