今日まで、その“謎めいた組織”は様々に語られてきた。曰く、「世界を牛耳る陰謀組織」「日本や世界の歴史を動かした」等々。怪しげな言説に彩られた「フリーメイソン」の実態に迫るべく、日本にある15のロッジ(拠点)を束ねる総本部「日本グランドロッジ」(東京都港区芝公園)に足を踏み入れた。そして日本グランドロッジを主宰する第60代グランドマスターの猪俣典弘氏疑問をぶつけた。
歴史上の大きな出来事にフリーメイソンが関わってきたことは事実だ。フランス革命には人権宣言の起草者ラファイエット、初期の革命指導者ミラボーら多くのメイソンが関わり、米国初代大統領ジョージ・ワシントンもメンバーだ。イタリア統一運動にも多くのメイソンが参加し、トルコ独立の指導者ケマル・アタテュルク、フィリピン独立の英雄ホセ・リサールなど多くの革命指導者がメイソンとされる。
──革命や独立戦争をフリーメイソンが主導したというのは本当でしょうか。
猪俣氏:ロッジ内で宗教や政治の話はタブーであり、フリーメイソンは反権力や反体制を教えてはいません。ただし、個々のメンバーが命懸けで行う運動や行為について、強い絆で結ばれたブラザー(メンバー)に伝えて、活動の枠を広げた可能性はあります。組織的にではなく、横のつながりで革命などに加わったメンバーならいるかもしれません。
第二次大戦中、メイソンのメンバーは軍服に赤いリボンをつけて戦い、それを見つけた敵方のメイソンは引き金を引く指を止めたといいます。現在、フィリピンではイスラム過激派と政府側が戦っていますが、両者にメイソンがいます。彼らは昼間戦い、夜はロッジで談笑することもあります。
──幕末の志士・坂本龍馬はフリーメイソンだったスコットランド出身の商人、トーマス・グラバーに操られており、明治維新はメイソンによるクーデターだという陰謀論が日本では有名ですが……。
猪俣氏:あくまで一次資料を欠く推測で根拠がありませんが、逆に坂本龍馬がメイソンではなかったという証拠もない。ロマンは残しておいていいかなと思います(笑)。
※SAPIO2016年10月号