三大疾病でがんに続いて死因第2位(15.5%)の「心疾患」は、その症状によって「最期」は大きく変わる。
特に心不全の辛さは群を抜いている。心不全とは、心臓のポンプ機能が低下して全身に十分な血液や酸素を送り出せなくなる状態で、酷くなると肺の血液の流れが悪くなって肺水腫でじわじわと苦しみが続く。心不全とは対照的に、瞬間的に激痛を伴うのが急性心筋梗塞だ。65歳の夫を昨年亡くした小林照代さんはこう話す。
「病院の検査で不整脈があったので薬は飲んでいたんですが……。それから10年後、ある晩に家族で食事中に突然胸を押さえて『ウウッ』と呻いて突っ伏したんです。救急車で病院に搬送されましたが、そのまま意識が戻ることなく、2日後に息を引き取りました」
救急救命士で帝京平成大学健康メディカル学部・准教授の鈴木哲司氏の話。
「急性心筋梗塞は心臓に酸素や栄養を送る血管の冠動脈が突然詰まって血栓ができ、血流が止まることで心臓が壊死する病気です。患者は顔面蒼白、冷や汗をかき、もがき苦しみます。その痛さを『バットで強く叩かれたような痛み』と表現する方もいます」
急性心筋梗塞の場合、3時間以内に詰まった血栓を溶かす血栓溶解や、狭くなった動脈を広げる心臓カテーテル治療をすれば助かるケースもあるが、死亡率は約20%と高い。
最初の激痛を過ぎればポックリ死ねる──というわけではないらしい。急性心筋梗塞の恐ろしさを鈴木氏が指摘する。
「急性心筋梗塞の場合、息絶えるぎりぎりまで意識がはっきりしていることがあります。そうなると、精神的不安や呼吸困難、激痛で死の瞬間までもがき苦しむ」
しかし心筋梗塞にはごくまれに「楽に死ねる」ものもあるという。
「糖尿病患者や高齢者に多い無痛性心筋梗塞の場合、わずか数秒で脳に血液が回らなくなり意識を失います。苦痛を感じることなく絶命する。睡眠中に起こることも珍しくなく、目を覚ますことなく死に至る」(同前)
朝、主人を起こそうと思ったら、死んでいた。残された家族はショックだが、本人にとっては「穏やかな最期」だったのかもしれない。
※週刊ポスト2016年9月16・23日号