脳卒中死の約6割を占め、毎年7万人の命を奪う脳梗塞は、激しい頭痛を伴なうことが少ない。東京脳神経センター病院院長の堀智勝・医師が解説する。
「嘔吐はありますが、たいていは苦しみよりも先に意識混濁が起きて気を失います。そのまま亡くなるとすれば、くも膜下出血のような激痛は少ない」
ただし脳梗塞の場合、一命を取り留めたとしても、長い苦しみが待ち受けている。5年前に61歳の父を脳梗塞で亡くした吉田信二さんの話。
「10年ほど前に脳梗塞を発症して左半身麻痺の後遺症が残りました。その2年後に脳梗塞を再発すると右半身も麻痺。日常生活は車椅子を使用し、常に介護が必要になりました。
食事や排泄も自分で満足にできないストレスでうつ状態になり、嚥下機能が低下して最期は食べることもできなかった。喋る気力も失ってしまい、その翌日に亡くなりました。あんな父の姿を見るのは本当に辛く、『最初の脳梗塞で亡くなっていたほうが幸せだったのかな』と考えてしまったほどです」
いったんは脳梗塞から生還しても、後遺症によって「より辛い死」を迎えることになるケースも少なくない。がんのみならず、多くの三大疾病患者の医療相談を受けてきた「がん難民コーディネーター」の藤野邦夫氏が語る。
「私の知るケースでは、脳梗塞が原因で全身麻痺になり、動かせるのは眼球だけという方がいました。流動食で食事し、車椅子で散歩もできますが、基本的に寝たきりなので、どうしても心肺機能が落ちてくる。脳梗塞の発症から3年半後に亡くなりました」
麻痺だけではない。前出・堀医師が語る。
「手が麻痺すれば指が開かず、自分では服も着替えられない。そうした不自由さに加えて関節を動かそうとするたびにビリビリと痛む『末梢性疼痛』が起こります。さらに視床出血を起こすと、実際の手足には痛みの刺激が与えられていないにもかかわらず脳が猛烈に痛いと錯覚する『中枢性疼痛』に変わります。
これは患者によると“他のどの病気よりも痛い”らしく、『先生、(痛む足を)もう切り落としてくれ!』と懇願されたことがあるほどです」
※週刊ポスト2016年9月16・23日号