ムツゴロウさんとして親しまれる畑正憲氏は、「そもそも人間も動物も同じ生き物。分けて考えるのが間違い」という考えの持ち主。そんな畑氏は、アスリートも一種の動物として見ているようだ。北海道標津郡中標津町のムツ牧場で暮らしている畑氏を、ノンフィクションライターの山川徹氏が訪ねた。(文中敬称略)
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8月中旬。リオ五輪が佳境を迎えていた時期であった。
「ずっとテレビに釘付けだから大変ですよ。毎日寝るのが11時だから」
──夜11時までオリンピックを見ているんですか?
「いえ。昼の11時。ずっと中継を見ているから寝るのが昼前になってしまうんです。スポーツのことになると、ぼくはクレイジーだから。ボルトはダメだろうと思っていましたが、金メダルを取った。人類学的に見ても彼の身体は走るのに適しているんですね」
動物と麻雀に対してクレイジーなのは知っていたが、スポーツもそうだったとは意外だった。それにしても、だ。ボルトの体格の話はまだ分かる。クレイジーさ……いや、面白さを感じたのは、テニスのジョコビッチの話である。
「ジョコはショットのたび『ウン!』『ウン!』と叫ぶでしょう。その声が聞こえると家にハトが集まってくるんですね。繁殖期のハトは鳴き合ってコミュニケーションを取るから、ジョコの声がよほど魅力的だったんですね」
やはり視点が違う。畑はアスリートを一種の動物として見ているからこそ、スポーツに対してもクレイジーだったのである。
【プロフィール】畑正憲(81)/動物研究者・1935年福岡県生まれ。満洲開拓団に家族で参加。6歳から小学校3年まで同地で生活。東京大学理学部卒業。学習研究社で記録映画製作に従事した後、作家として独立。1980年よりテレビ番組『ムツゴロウとゆかいな仲間たち』がスタート。多忙を極めたが、趣味の麻雀のためなら徹夜も厭わなかったという。
聞き手■山川徹(ノンフィクションライター)
※SAPIO2016年10月号