「膕」と漢字一文字で書く部位が、膝の後ろにある。「ひかがみ」というこの呼称の語感の美しさはただごとではない。しかしいつのまにか、膝の裏側とかいう味気ない呼び方にとってかわられて、ほとんど使われなくなっていた。もったいない。
膕は普段露出していることが多いのに、乳房やお尻のインパクトに押されて、忘れられがちである。しかし、いざこの部位をよく見ると、その陰影の豊かさに驚かされる。えくぼのような窪みがあり、微妙にねじれた膨らみがある。解剖学的には、ふともも側からの筋肉とふくらはぎからの筋肉の結節点にできる「ひし形の空間」である。
ライフワークとして乳房、そしてお尻をクローズアップで撮っている私は、あるときふとこの繊細な陰影をもった部位の美しさに惹かれてしまった。窓から差し込む午後の光が膕に注ぎ、形のちがう二つのえくぼに見とれてしまった。それ以来、女性の膕を撮影しはじめたのである。
調べてみると、膕という呼称は室町時代あたりから使われ始めたようである。それ以前は「膕窪(よぼろくぼ)」あるいは「よぼろ」と呼んでいた。「ひっかがむ(引っ屈む)」といういいかたが、やがて「ひかがみ」になったという説もある。
それはともかく、こうして毎日のように女性の膕を見、撮影していて飽きることがないのは何故なのか。一人一人、ひとつひとつ形状が違うからというのがまずはその理由だろう。撫でてみたいようなやわらかさと、そこにそっと耳をあてて眠りたいような暖かさがある。
膕を撮影した写真展を開催中だが、この語や部位への反応が高くてびっくりしている。繊細な美意識を持つ日本人の感性が、膕の魅力を見逃すはずがないのだ。膕は時代を超えて生き延びていくだろう。
撮影・文■伴田良輔:『おしりとひかがみ』展は9月25日まで東京・浅草橋のTODAYS GALLERY STUDIOで開催。詳細はhttp://www.tgs.jp.net/
※週刊ポスト2016年9月30日号