天皇の生前退位のご意向をめぐり、安倍晋三・首相は、今上天皇一代に限り例外的に生前退位を認める特別措置法(特措法)を制定する意向だ。だが、皇室典範の改正なしに特措法で生前退位を認めるとなると、皇室の活動に様々な問題が発生することが予想される。
まず今上天皇の退位で皇太子が次の天皇として即位した場合、「次の皇太子」が不在になる。皇位継承順位は秋篠宮が第一位に繰り上がるが、現行の皇室典範では天皇の弟が「皇太弟」となる規定がないからだ。皇室ジャーナリストの久能靖氏が指摘する。
「現実的には皇太子としての公務を秋篠宮殿下が担うことになるでしょうが、正式な皇太子が不在になると宮内庁の東宮職が廃止になるかもしれません。
また、皇室経済法では天皇と皇太子のご一家は内廷費、他の宮家は皇族費で生活をまかなっており、予算額も大きく違います。秋篠宮家を現状通りの筆頭宮家として扱うのか、それとも内廷皇族にするか、これも法改正が必要になる。こうした問題は特措法では対応しきれない」
さらに久能氏が憂慮するのは女性宮家創設問題だ。
「皇室制度の議論を行なう時に前提として考えなければならないのは、今後、皇族の数が間違いなく減っていくこと。現在、天皇陛下が海外に行かれる時は皇太子殿下と秋篠宮殿下が代行を務めていますが、将来、悠仁親王が天皇になると代行を務める皇族がいなくなります。
そこで女性宮家創設の議論があるわけですが、眞子さま、佳子さま、愛子さまの3人の内親王のうち、年長の眞子さまは現在24歳。仮に、皇室典範改正の議論を引き延ばしている間に眞子さまがご結婚され、皇籍離脱した後に宮家創設が決まれば、秋篠宮家の姉妹のうち眞子さまは民間人、佳子さまはご結婚後も皇族という事態にもなりかねない」
天皇は8月8日の「お言葉」の最後に「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ、ここに私の気持ちをお話しいたしました。国民の理解を得られることを、切に願っています」と述べた。
『天皇論』などの著作で知られる漫画家の小林よしのり氏は、「陛下は一代限りの特措法などではなく、安定した皇位継承につながるような皇室典範の改正を望まれていると考えるのが自然でしょう」と受け止めている。
※週刊ポスト2016年9月30日号