厚生労働省の調べによれば、全国の待機児童数は前年より386人増の2万3553人(今年4月現在)。塩崎恭久厚労相は「帰宅時間が遅い親向けの時間外保育の充実」、「延長保育後のベビーシッターの活用支援」など待機児童解消に向けた追加対策を公表しています。いま、日本中が注目する保育の問題について、白梅大学学長で東京大学名誉教授の汐見稔幸さんに話を聞きました。
──先生は厚生労働省ほか、多数の保育関連組織で要職を務めておられますが、このニュースを受けてどういう印象を持たれましたか。
汐見:いまほど保育の世界に注目が集まったことはないでしょうね。「子育て・保育」の意義を世の中に広く認識してもらうにはいい機会だと思っていますが、一方で待機児童問題や保育士不足問題など、保育の「質」ではなく「数」の問題ばかりが取り沙汰されることに、少し焦りも感じています。
──「質」とは具体的に、どういうことでしょうか。
汐見:保育というのは、次世代に人間らしく生きる力や市民力を育む「人育て」なんです。つまり最も基礎的な教育なんですが、そこがまだ世の中に十分理解されていません。友達と遊びながら工夫力や社会性を身につけたり、失敗することで試行錯誤する力や忍耐力を伸ばしたり、集中力や企画力、判断力を強くしたりしますよね。ほかにも、自信、好奇心、協調性など、いわゆる社会情動的なスキルをいっぱい伸ばす営みなんです。当然、それをうまく担える保育になっているかどうかが大事な問題になります。
──「数」を揃えれば問題が解決するわけではないということですね。
汐見:保育園の数を増やすだけではなく、そういった、子どもたちの豊かな育ちを保障する保育ができる園の条件や「質」を上げるための工夫如何という議論がとても大事なのですが、行政や政治家のレベルでは残念ながらほとんどされてきていません。将来、意欲的で主体的な人生を送ることができる人間に育てるには、何かを教え込んだり指示する保育よりも「子どもたちが自ら主体的に選び、遊び、活動する保育」に重心をおかなくてはだめだということがわかってきているんです。