「がん」「脳卒中」「心疾患」などによる死の中には、苦しみや痛みを伴うものもあれば、比較的「ポックリ」と死ねるものも存在する。一方で、様々な「死に方」の中で、どれが一番辛いかを見極めるのは難しい。
そこで今回、本誌は名医に取材を敢行。患者の傍らで数多くの死を見届けてきた彼らに「もし自分ならこの病気で死ぬことだけは避けたい」というものを挙げてもらった。循環器を専門とする目黒通りハートクリニック院長・安田洋医師が挙げるのは急性上腸間膜動脈閉塞症だ。
「血流が途絶えて栄養が行き渡らなくなった腸が腐って、腹部に激痛が走るようになります。発症後は痛みがどんどん増幅する。患者は、血流の途絶えた腸の痙攣で内臓を絞りちぎられるような痛みに襲われパニックになるほど。やがて腸内のばい菌が全身に回って敗血症を引き起こし、意識がもうろうとするなか亡くなることが多い」
小林憲二さん(享年66)も激痛に悶えながら救急搬送先で帰らぬ人となった。小林さんの妻が証言する。
「夫は高血圧だったにもかかわらず、医師からの生活習慣指導を無視し続けていた。ある朝、突然お腹を押さえて床に突っ伏したかと思うと『ウォ~』と叫びながら転げまわったんです。顔面蒼白であぶら汗を流し痛がったので、救急車を呼んだ。『急性上腸間膜動脈閉塞症』と診断され、即手術。しかしその甲斐なく数日後に帰らぬ人となりました」
「看取り」が専門の石飛幸三医師もこの病気を挙げた。
「2~3時間で処置しないと大量の下血、嘔吐、脱水症状などでショック状態に陥り、死に至る。あの激痛にもし自分が直面したら……と思うとゾッとします」
※週刊ポスト2016年9月30日号