「がん」「脳卒中」「心疾患」などによる死の中には、苦しみや痛みを伴うものもあれば、比較的「ポックリ」と死ねるものも存在する。一方で、様々な「死に方」の中で、どれが一番辛いかを見極めるのは難しい。
そこで今回、本誌は名医に取材を敢行。患者の傍らで数多くの死を見届けてきた彼らに「もし自分ならこの病気で死ぬことだけは避けたい」というものを挙げてもらった。「長く苦しむ」死に方として、米山公啓医師(神経内科)は腹水が溜まり、尿も出せず、血を吐いて死に至る肝硬変を挙げた。
「末期になると食道静脈瘤が破裂して1リットルぐらい血を吐き、放置すれば失血死する。黄疸で体が黄ばみ、衰弱して痩せ衰えた体は全身至るところをチューブにつながれる。肝臓機能がやられ、最後は多臓器不全でやせ衰え、死に至ります」
秋津医院の秋津壽男院長(内科)は食道がんが嫌だという。
「食道がんは唾すら飲み込めなくなる。そのままでは生活できないため手術が必要ですが、術後は縫合部分が炎症を起こさないように機械で唾を吸引しないといけない。これがかなり不快なのです。唾を飲み込めるようになっても傷口に障って、また別の不快感が伴う。生き地獄ですよ」
最終的には呼吸器系の合併症を伴い、呼吸ができず亡くなることが多い。
近年の緩和ケアはひと昔前に比べ格段に進歩しているが、呼吸器系の病気の苦しさはどんな薬剤を使っても取り除けない。「苦しさなら肺気腫などの総称である慢性閉塞性肺疾患でしょうね」と話すのは国際医療福祉大大学院教授の武藤正樹医師(外科)だ。
「気づいた段階では症状がかなり進行していることが多いため、ある日突然、呼吸ができなくなるというケースが多い。肺に水が溜まってしまうため人工呼吸器も使えず、呻くことさえできずに亡くなります」
一色高明・上尾中央総合病院心臓血管センター特任副院長(循環器)も同意見。
「慢性閉塞性肺疾患は治りません。酸素ボンベをがらがら引っ張りながら少し歩いては『ゼエゼエ、ハアハア』と背中を丸める患者さんの姿を見ると相当苦しそうです。息苦しさを長い期間患った挙げ句に亡くなるので、最も辛い死に方のひとつだと考えます」
※週刊ポスト2016年9月30日号