映画「シン・ゴジラ」が大ヒットしている。だがひょっとして、そんなことはあり得ないが、万が一にもまだこの映画を見ていない人がいるかもしれない。そんな人のために「まだ見ていない」と勇気あるカミングアウトした大人力コラムニスト・石原壮一郎氏が「乗り遅れた人のための『シン・ゴジラ』活用術」をお届けする。
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「久々に映画を観て心の底から感動したね。もう5回も観ちゃった」
「あれは観たほうがいいよ。ていうか観なきゃだめだよ!」
ゴジラシリーズの最新作『シン・ゴジラ』を観た人の多くは、時に熱く、時にうっとうしくその素晴らしさを語ってくれます。文章を書く仕事をしているのに正直に白状するのは勇気がいるのですが、あまりにも周囲が大絶賛している様子に面食らっているうちにタイミングを逸して、まだ観ていません。
もしかしたらこの先観ることがあるかもしれませんけど、たぶん内緒にしておくか、あるいは公開直後に観たような顔をするでしょう。「すごかった!」と絶賛したら「今さらかよ」と冷たい目を向けられそうだし、相性が合わなくて悪く言ったら「人とは違う意見を言える俺をアピールしたいわけね。はいはい」と冷笑されそうなので。
そんな「乗り遅れ組」の戸惑いをよそに、映画は相変わらず大ヒットを続けています。7月29日から9月6日までの40日間で観客動員数420万人を突破したとか。配給元の東宝も気をよくしつつさらなるヒットを目指して、全国の上映劇場で「大ヒット御礼・名台詞ステッカー」を50万枚配布したり、スクリーンに向かって声援を送ることができる「発声可能上映」を実施したりしています。
乗り遅れたからといって、みんなが『シン・ゴジラ』の話をしている横で、うつむいて静かにしている必要はありません。ツボさえ押さえておけば、話の輪に入ったり盛り上がりを活用したりできます。何だったら観たフリをしても大丈夫。この騒動はまだしばらくは続きそうな気配なので、とりあえず、いくつか乗っかり方を考えてみましょう。
まず押さえておきたいのは、『シン・ゴジラ』の「シン」の意味。総監督の庵野秀明さんによると、「シン」は「新」であり「真」であり「神」でもあるとか。部下が急にやる気を見せたら、名前に「シン」をつけて「おっ、今日はシン・山田だな」といった具合にホメると、流行に敏感な上司と思ってもらえるでしょう。逆に、自分の名前に「シン」をつけて、上司に「今日からシン・石原でいきます!」と決意表明をするのも一興です。
そのほか「メッセージ性が強い映画である」「東日本大震災や原発事故と重ね合わせられる部分が大きい」「電車が活躍する」「今までのゴジラとは形が違う」「けっこう怖い」といったあたりが、映画の雰囲気をつかむための基礎知識。なんせネットなどから勝手に入ってくる情報をつなぎ合わせただけなので、間違っていたらすいません。
まあでも、『シン・ゴジラ』の話になったら、とりあえず「メッセージ性が強い映画だよね」「電車が活躍するシーンに萌えるよね」と言っておけば、わかっているような顔はできます。ただし、深く突っ込まれるとボロがでるので、ひと言発したあとは「あっ、そうだ。そろそろ打ち合わせに行かなきゃ」とかなんとか言ってその場を離れましょう。そうすれば、その場にいるメンバーの心には「わかっている人」という印象だけが残ります。