ピアニストとしても活動する松井咲子がFX(外国為替証拠金取引)を学ぶこのシリーズ。セントラル短資FX代表取締役・松田邦夫さんを迎えて、FXでお馴染みの通貨が、どのような文化的背景を持っているのかを毎回探っていきます。今回取り上げる通貨は、EU(欧州連合)からの離脱を国民投票で決め、全世界を揺るがしたイギリスの『ポンド』。政治的な話題から始まると思いきや、対談は冒頭から予想外の展開に……。
◆ピーターラビットも英国発
松井:今日は松田さんのイメージとはだいぶ違う、ずいぶんかわいらしいお店ですが、松田さんのセレクションなのですか?
松田:いや、あの、今年はピーターラビットの物語の作者であるビアトリクス・ポターの生誕150周年です。彼女の絵は、日本人がイギリスの田園について持っているイメージとぴったりでいいかな、と「清水の舞台から飛び降りる」気持ちで選びました。
松井:そんな大げさなものでしょうか(笑)。でも、心なしかいつになく緊張しておられるようで。前回インタビューのあと、「次回はイギリスにしましょうか?」とおっしゃっていたので、「ビートルズ来日から50年」といったお話かな、なんて考えていました。松田さんは当時のことをよく覚えておられるのでしょう?
松田:半世紀前に生まれていたことは認めますが、まだ小学生でした(笑)。
◆国民投票がFXに与える影響
松井:ただ、イギリスと言えばここ数か月はEUからの離脱の話で持ち切りでしたね。
松田:長く国際金融の仕事に携わった私から見ても、市場に極めて大きなインパクトを持つ政治イベントでした。イギリスでは首相まで交代しましたし、ヨーロッパ大陸にも波紋が広がっています。
ただ、今後離脱に向けては紆余曲折を経ながら数年をかけた大作業になるでしょうから、すぐに大きな混乱が起きる可能性は高くないでしょう。通貨ポンドがなくなるわけではありませんし、ロンドンの国際金融センターとしての地位が簡単に揺らぐとも考えにくいところです。
松井:ということは、ポンドがすぐに投資しにくくなるといったことはないのでしょうか?
松田:そう思います。FXについて言うと、これだけイギリスやEUが話題になったおかげで、投資家のポンドやユーロについての知識が格段に増えて、投資対象として身近になった面もあるのではないでしょうか。
◆ポンドのトリビア
松田:イギリスの通貨ポンドは、金融の世界では「スターリング」とか「ケーブル」といった別名でも親しまれてきました。ドルにも「グリーンバック」とか、日本の1万円札にも「聖徳太子」などのニックネームがありますね。聖徳太子はちょっと古いですか?
松井:私は知りません……。
松田:失礼しました。ポンドは私が子供のころは12進法と20進法の入り混じった複雑な数え方だったんです。また、イギリスでは、日銀にあたるイングランド銀行のほかに、スコットランドと北アイルランドにある7つの銀行もポンド紙幣を発行しているんです。
松井:それも初耳です。冒頭からトリビア全開ですね(笑)。
◆イギリス「音楽」とジョーク
松井:そんなイギリスですが、こと音楽や文化となると、ビートルズやロックの本場ということと、シェークスピア以外はあまり思いつくものがなくて……。
松田:作曲家では、20世紀に活躍したブリテン、エルガーなどは日本でも有名ですね。イギリス人は、300年以上も前に活躍したヘンリー・パーセルに強い誇りを持っているようですが。
松井:シリーズのタイトルである「変奏曲」の名曲のひとつ、エルガーの「エニグマ(謎)変奏曲」はメロディーが美しくて大好きです。小学校の音楽の授業で聴いた「青少年のための管弦楽入門」の正式タイトルも、確か「パーセルの何とか」だったのでは……。
松田:ブリテン作曲「パーセルの主題による変奏曲とフーガ」ですね。
松井:松田さん、まるで音大の先生みたいです(笑)。でも、なぜイギリスに有名な作曲家が少ないのですか?
松田:確かに、演奏家や劇場は超一流なのに不思議だなあ、と子供のころからずっと気になっていました。
松井:松田さんは、すごいことで悩む子供だったんですね(笑)。
松田:有力な考え方は、17世紀の「ピューリタン革命」のあと、宗教的な理由で庶民が音楽を楽しむ風習が途切れてしまった、というものです。一方、私は、イギリス人は創造的作業(作曲、絵画、料理)より実際的作業(演奏、研究)が得意で、「極上」のモノに接したければ、おカネを出してどこからでも呼べばいいじゃないか、という気風が強いからだと思います。
実際、ヘンデル、ハイドン、モーツァルトといったドイツ、オーストリアの大作曲家がイギリスで大歓迎されましたね。ウィンブルドンでの外国人テニス選手の活躍ぶりを見ても、同じことが言えるかもしれません。まあ、松田説などどうでもいいです(笑)。
松井:いえ、そういう話こそ、FXの世界を身近にしてくれるように思います。
■取材協力:『ピーターラビットTM ガーデンカフェ』(自由が丘本店)
※マネーポスト2016年秋号