演劇鑑賞やコンサートなどで、遠く離れた舞台のスターを見るのに使われる観劇用の双眼鏡。以前は、風景を見るように作られたいささかゴツいタイプのものも多かったが、観劇用に作られたコンパクトな双眼鏡が登場。歌舞伎ファンなどに愛用者が増えている。それが、「サクラス」(2万1600円)だ。
作っているのは、天体望遠鏡や顕微鏡などの総合光学機器メーカー「ビクセン」。創業は1949年。8代目社長の新妻和重さんは、歌舞伎などの伝統芸能を楽しむことが好きでよく出かけていたが、客席で使われている双眼鏡が気になっていたという。
「歌舞伎や狂言は、舞台が近くてマイクを使わない生音の迫力が醍醐味のひとつ。あまり高倍率では、演者の動きが楽しめません。舞台に適した双眼鏡ならもっと楽しんでもらえるのにと思っていました」(新妻さん、以下「」内同)
そこで、「着物で歌舞伎座に行きたくなる双眼鏡」をコンセプトに開発に着手した。
「レンズのサイズが大きくなるほど明るくシャープな像を見ることができますが、双眼鏡自体も大きくなり、持ち運ぶのに不便になります。舞台には、照明もありますから、明るさよりも、長時間使っていただけるように、軽くてコンパクトなものにすることが優先だと思ったのです」
そこで倍率は手ぶれの少ない6倍とし、対物レンズの口径は軽量化を優先して16mmに決定。目と目の幅を3~8.2cmまで調整可能にしたことで、子供や女性の顔にもフィットして見やすくなった。
「ボディーカラーは、着物を着て、髪をまとめた女性が客席で双眼鏡を使う姿が“絵”になるようにしたくて、やさしい“山桜色”にしました」
すべてを閉じてたたむと、手のひらにすっぽり収まる。目を当てる部分はソフトなゴム素材を使用しているので、眼鏡をかけたままでも使いやすい。こうして構想から約3年後の2013年4月に発売。観劇はもちろん、美術鑑賞やコンサートのお供に欠かせない、という声も多い。
※女性セブン2016年10月6日号