音楽産業が全体的に縮小傾向にあるといわれるなか、複数のミュージシャンやバンド、アイドルが出演するイベントや音楽フェスは拡大している。盛況なイベント&フェス人気を反映して、それまで単独コンサート以外のステージには立たなかったミュージシャンが出演したり、バンド主体のイベントにアイドルが登場することも増えてきた。それとともに音楽フェスに初参加するファンも増え、各地で「地蔵」問題が勃発している。
「地蔵」とは、目当ての出演者をステージそばで見るために何時間も前から最前列付近に立ち続ける人たちのこと。ひいきの出演者が出てくるまで、目の前のステージで何が演じられても無反応で立ち続け、お地蔵さんのように微動だにしないことから皮肉を込めてそう呼ばれるようになった。複数の演者が順番に出演するフェスやイベントでは、最前列はそれぞれのファンに順番に譲りあうのがマナーなので、地蔵になるのは迷惑行為ととられる。
もっとも、1997年の第1回からフジロックフェスティバルには毎年、欠かさず参加しているファンは「昔から地蔵はいました」と苦笑する。
「第1回のときも、メジャーでヒット曲を連発していたTHE YELLOW MONKEYのファンが地蔵になっていました。今年はBABYMETALのために6時間も前から場所取りする『ベビメタ地蔵が出現』と話題になりましたが、言われていたほど地蔵じゃなかったなあ。若くないから長時間、動けないだけだと思う。イエモン地蔵が出現した当時はSNSがなかったから、フェスへ行った人とその周辺しか知らなかったし地蔵もなかなか解消しなかったことを思うと、Twitterで拡散されるのがひどい地蔵への抑止力になっているかもしれないです」
2013年のサマーソニック大阪にMr.Children(ミスターチルドレン)が出演したとき、ブルーシートを使ってまで場所取りする地蔵が出現した。しかし、SNSで大きな批判を浴びたことを反映してか、サマソニ東京では同様の地蔵は出現しなかった。翌年は、SEKAI NO OWARIのファンが地蔵を出現させた。彼らの場合は若年層のファンが多いため、単純に楽しみ方のバリエーションが少ないだけなのかもしれない。
現われては消える地蔵は悩みの種だ。フェス系式の音楽イベントは増えており、完全に“撲滅”することは難しいだろう。もっとも、それ自体はフェス続行が危ぶまれるような問題とまではいえない。一方で、そろそろ本格的に運営側の対処が求められ始めている新しいタイプの地蔵もいる。アイドル中心のイベントやフェスで出現し始めているビジネス地蔵問題だ。アイドルグループのファンだという30代男性は、思いつめたような表情で話しだした。
「最前列を陣取っているだけの地蔵なら、納得はできないけど、まだ我慢できます。体力がないとか、ライブの経験がなくて勝手がわからないだけかもしれないから。許せないのは、推しのときだけ最前を代わってほしいとお願いすると、お金を要求する人です。それで払った人もいます。でも僕は、推しの利益にまったくならないと思うので払いませんでした。先日、チケット転売で逮捕者が出ましたが、同じように罪深いと思います」
まだごく一部でしか目撃と体験情報がないとはいえ、ビジネス地蔵の存在は、盛り上がりつつあるフェス文化の妨げにしかならないだろう。ファンの間の自浄作用は働くか。