金市場の動向に顕著な変化が現われている。欧州のリスク回避の金買いが新興国の需要の落ち込みをカバーしているのだ。その背景には何があるのか、マーケット ストラテジィ インスティチュート代表取締役の亀井幸一郎氏が解説する。
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6月下旬以降、金融市場の混乱は金価格を押し上げた。イギリスのEU離脱をきっかにリスク回避で金市場にも資金流入が加速し、7月5日には、世界最大の金ETF「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」が残高を1日だけで28.81トン増やした。翌6日には、COMEX金先物市場で2年4か月ぶりの高値となる1377.50ドルをつけた。その後、調整に入り、8月現在は1300ドル台で推移している。
現在の高値圏をつくっている主役は、欧米のヘッジファンドだが、フランスでのテロ事件やブレグジットを受けて膨らむ不安心理などから新たに金を買う動きや、保有中の金を手放さない傾向が総じて強まっている。
象徴的なのが、スイスからロンドンへ大量の金地金が空輸されている動きだ。
金の裏づけがある「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」は、金現物を業者間取引で用いる400オンス(約12.5キロ)の大型バーの形でロンドンのカストディアン銀行の地下金庫に保管している。
実は最近、大手精錬所が集積するスイスに、ドバイから大量の金現物が送られている。世界の金現物取引の中心地はロンドンだが、ドバイは主に新興国向けの金現物中継基地としての役割を果たしている。そのドバイに集まった小口の金現物がスイスで業務用大型バーに鋳造され、ロンドンの地下金庫へ移動しているのだ。
ここで思い出すのが、1年間で米ドル建て金価格が28%値下がりし、NYダウが28%値上がりした2013年である。金を売って株を買う欧米の投資マネーが金市場から抜け、新興国マネーが旺盛な実需の買いを入れた年だ。
当時は「SPDRゴールド・シェア」からも投資マネーの流出が加速したが、売却されたバーは窓口での販売には向かない。小口化するためにロンドンからスイスに大量の金現物が輸出され、そのスイスで500グラム、1キロと小口化された金現物が香港、インド、シンガポールなどへ大量に運ばれていった。まさに今、この2013年に起きた流れと真逆の流れがスイスを介して起こっているのである。
※マネーポスト2016年秋号