「がん」「脳卒中」「心疾患」などによる死の中には、苦しみや痛みを伴うものもあれば、比較的「ポックリ」と死ねるものも存在する。一方で、様々な「死に方」の中で、どれが一番辛いかを見極めるのは難しい。
そこで今回、本誌は名医に取材を敢行。患者の傍らで数多くの死を見届けてきた彼らに「もし自分ならこの病気で死ぬことだけは避けたい」というものを挙げてもらった。
「精神的負担を伴う」死に方として、銀座泰江内科クリニック院長の泰江慎太郎医師(内科)が挙げるのが糖尿病性腎症だ。
「糖尿病は手足が壊死したり、失明するなど自由を奪われる。さらに糖尿病性腎症まで引き起こせば、1日4時間、週3回の人工透析を年間約500万円かけてやらなければならなくなる。
透析は血圧変動が激しく、丸一日立てないほどの疲労感が出る人もいる。透析を受けて翌日ぐったりしてまた透析、そのうち症状が徐々に悪化して死を迎える。遺された家族の経済的負担が大きいのも避けたい要因の一つですね」
患部が目に入るため失意に陥るのが口腔がんだ。横浜市立大医学部の岩井俊憲医師(口腔外科)の話。
「口の中のがんは手鏡で自分でもよく見える。歯茎にできた塊、舌にできた潰瘍(組織が欠けること)などです」
顎にがんができると骨を切除せねばならず、その結果、顔が変形することもあり痛々しさが残るケースが少なくない。
「進行した口腔がんの術後は嚥下(食べ物を飲み込むこと)、構音(声を出す)、咀嚼などの障害が出るので生活の質は著しく低下します。
飲食や会話ができない、人間としての楽しみをここまで奪われる病気はないと思います。がんが肺に転移し、呼吸の自由まで奪われて亡くなることが多い」(同前)
※週刊ポスト2016年9月30日号